2013年5月26日日曜日

タンシチューを食べに


素敵屋さん 特製タンシチュー


前菜の自家製鴨ロースト
板皿は森岡成好作。


箸でちぎれるやわらかさ
ナイフとフォークをつかうと
かえってとろけてしまう


奥定泰之さんプレゼントのピノノワール


ボーヌ産のヴィンテージ・ワイン


パンはない。炊きたてのご飯のみ



「素敵屋さん」外観 庭がきれい

昨晩は午後10時に
広告コピーを脱稿。
つづいて
「現代詩手帖」
新人作品欄の
原稿の束山と向きあう。
何度も読み返し
入選・佳作を
選び終えたときは
早朝の五時だった。

今月は量、質ともに
先月を超え
選考にかけた時間は
前回が三時間
今回は五時間も
かかってしまう。

朝食にフルーツと
ミューズリー
スコッチを一杯呑んで
仮眠、起床後、掃除。

疲れたときは、肉!
と考え
自転車の篭にワイン瓶を
ほうりこんで
さいたま新都心の
お気に入りのレストランへ。

田園の奥まった庭にある
農家風の一軒家を改造した
「素敵屋さん」は
宮澤賢治の
「注文の多いレストラン」が
実在したらこんなかんじ!
と、ぼくが勝手に
おもいこんでいる
お肉が主役のレストラン。
どっしりとした
柱と梁
漆喰の壁
素朴な木の家具と
コナラの一枚板の
カウンター。
豪放な皿やボウルはすべて
日本の南蛮焼締の
カリスマ、シゲさんこと
森岡成好さんの作。
庭には季節の花々が咲く。

装幀家の奥定泰之さんが
友人のソムリエに選んでもらい
H氏賞のお祝いにくれた
ヴィンテージのピノを
特別に注いでもらい
タンシチューのコースをたのむ。
ぼくは肉をあまり
食べないが
ここのタンシチューは
大好物。
世界各地で
タンシチューを食べたけれど
(あくまで個人的には)
五指に入る。
吉田健一先生にも
教えてあげたかった。
(吉田健一は留学先の
ロンドンで一冬ずっと
ビールのあてに
ビーフシチューを食べ
つづけた。
学生も入れる安パブの
冬のメニューが
それしかなかったからだ。
以来、帰国後も
ビーフシチュー
をつまみに
ビールが定番になった
という。
神保町「ランチョン」名物
「ビーフパイ」は
そんな先生の
留学時代の思い出から
考案されたらしい)

タンは二枚も入っている。
自家製のお漬け物と
ご飯がとてもおいしい。
茨城県産の無農薬コシヒカリを
玄米のまま仕入れ
毎朝精米しているそう。
ゆえにパンはない。
ぼくはまずワインで
二枚舌をペロリといただき
さいごに
残ったシチューソースを
ご飯にかけて食べます。

月一回は食べたいのに。
五月は多忙で
連休もなにもなかった。
午後からまた執筆だけれど
だいぶ
元気がでました。

2013年5月24日金曜日

不惑?


近所で美味しいと評判の
ケーキ屋さん「アルピーノ」。
妻がバースデーケーキを
注文して
買ってきてくれた。

いったい
「40」の蠟燭まで
たてて
誕生日をお祝い
してもらうような
(はずかしい)
四十男が
この世にどれだけ
いるだろうか。

ブログにこんな
写真をのせてしまうのも
不惑、ゆえに?

赤面しつつ
二本の蠟燭の灯を
吹き消しました。

2013年5月19日日曜日

翻訳家たちの夜



広告の仕事の徹夜明けで
そのまま神保町へ。

妻と思潮社の出本さん
装幀家の奥定泰之さんを
誘って
東京堂書店での
古川日出男×
柴田元幸各氏による
古川さんの
『南無ロックンロール二十一部経』
新刊発売記念
トーク&朗読イベントを
見にきたのだ。

古川夫妻にお祝いの品として
仏文学者たちに人気のある
「伯水堂」で
マドレーヌの包みを購う。

眠い、ものすごく眠い。
けれども、つい
「放心亭」に
ふらふらと入る。
ビフテキがなかったので
牛タンの塩漬けと
ビットブルガーの生を注文。

イベント会場には
出版関係者や翻訳家も多い。
閉会後は
古川さんと柴田さんから
サインをもらい
来場されていた
JLPPの田島幸子さん
イギリス人女性翻訳家
竹森ジニーさん夫妻
フランス人女性翻訳家
ミリアン・ダルトア・
赤穂さんらと合流
ランチョンへ。

流暢な日本語が飛び交う
なか
田島さんは
海老フライの大きさに
おどろき
ぼくと出本さん
奥定さんは
来年始動予定の
詩的プロジェクトを
相談。

話たりなかった
ミリアンさん
田島さん出本さんと
お気に入りのバー
「グラウンド・ライン」
に移って
フランス文学と
日本文学についての
話が盛り上がる。

五月の夜の
暖かいけれど
さわやかな風が
ミントジュレップの
甘い香りをいっそう
芳しくして
口元に運んでくれる。
イベントの内容も
そうだったけれど
田島さんもジニーさんも
ミリアンさんも妻も

翻訳家って
文化と言葉の旅人だとおもう。
本のページのうえに
とどまりながら
何万キロも旅をする
のが仕事という
不思議な天使たちに
見守られてすごした
ここちよい夜でした。

あまりに盛り上がりすぎて
ぼくと妻は終電を逃し
「庭のホテル」に
投宿してしまった。



翌朝はオムレツと
ミューズリーと
フルーツの朝食。
ミントのせいか
二日酔いもなく
すっきり起床できた。

2013年5月13日月曜日

澁澤龍彦邸訪問 其の二 −作家の書斎−


酒宴を前に
応接間に隣接した
作家・澁澤龍彦の書斎を
見せていただくことになった。

深紅のカーテンをくぐると
作家の「ドラコニア」があった。

昼でも暗い書斎は
書架に四囲され
大きなライティングデスクの周りには
本が積まれていた。
書き物机のうえには
文鎮代わりにしていたという
鎌倉時代の鍔
小学生時代から使っていたという
「シブサハ」と名の書かれた
プラスティックの三角定規。
地球儀にペン、トンボの鉛筆。
学生時代から愛用し
革装がぼろぼろになるまで
使い込まれた
数冊のフランス語辞書。
執筆時に作家の背面となる
椅子の後ろには
繰り返し熟読した
ガリマール社版サド全集など
原書が並んでいた。
ぼくはなんとなく勝手に
澁澤龍彦の書斎には
古典しかないのではないか
と想像していたのだけれど
フーコーやデリダなど
澁澤龍彦晩年に
流行しだした
フランスの哲学者や
文学者の本も
所狭しと収蔵されている。
その並びには
澁澤龍彦訳
ジャン・コクトー著
『大股びらき』の
初版本が静かに
置かれていた。

そして、もちろん
作家が愛玩した
四谷シモン作「少女の人形」
ハンス・ベルメールへの
オマージュともとれる
土井典の通称
「ベルメール人形」の二体も
そのまま安置されている。
「少女の人形」の指は
澁澤家の柴犬がすこし
齧ってしまったという。

書架のところどころには
作家・金井美恵子が
詩人・吉岡実と
澁澤邸を訪れた折りに
プレゼントしたという
オウムの缶バッジや
随筆家・種村季弘が
置き去った招き猫など
文士や芸術家との
交流を偲ばせる
ちいさくて無名の
モノたちが無名のまま
置かれていた。
それらはもう
「オブジェ」となって
いるけれど
澁澤龍彦が身辺に
置いたモノたちは
高級品でもアートでもなく
いかにも
メンコやビー玉で遊ぶ
かつての少年が好んだ
気がねのない懐かしい品々
だったようにおもう。

龍子夫人が
鉛筆削り一個にいたるまで
澁澤龍彦生前のままに
保持しているという書斎。
ときには42時間
ぶっ続けで執筆したという
作家の姿を見守ってきた
本も人形もオブジェも
無言のままひっそり
在りし日の作家の時間と
気配を伝えてくれていた。

2013年5月7日火曜日

澁澤龍彦邸訪問 其の壱


鎌倉、京都から帰ると
奇妙で美しい花
シャクヤクが咲いていた。
澁澤龍彦低にうかがってから
四日が経っていたのか。

5月3日に鎌倉を訪れ
詩人の城戸朱理さんと
マッドバンビ姉
現鎌倉文学館館長で
文芸評論家の富岡幸一郎夫妻
にお連れいただいて
澁澤龍子さんをお訪ねした。

数年前から城戸さんに
「澁澤龍彦さんが
素晴らしい古唐津盃を
所持されていたらしい。
夫人の龍子さんから
ぜひ遊びにと
仰っていただいているので
いこうよ」と
誘われていたのだった。

(澁澤邸内の写真は非公開。
悪しからず)

鎌倉の緑のなかの白亜の家
美しいカーブを描く
玄関ポーチの古さびた
欧風ドアが開くと
澁澤龍子さんが
にこやかに立っておられた。

金子國善「エロティシズム」
原画が飾られた玄関から
ハンス・ベルメールや
加納光於、加山又造などの
絵画が壁一面に飾られている
応接間へご案内いただく。
「このお宅自体が
もう美術館ですね」とは
富岡さんのコメント。
天井近くの壁面には
四谷シモン作の
純白の天使が永遠に飛翔して
ぼくらを見下ろしていた。
澁澤龍彦氏に捧げられた
かの人形。
どことなくお顔が…と
思っているとやはり
モデルは澁澤氏ご自身だそう。

「太陽」各誌で
とりあげられた
応接間にはヨーロッパの
アンティーク家具しか
置かれていない。
キャビネットには
頭蓋骨のレプリカ
オウムガイの化石
サソリの標本など。
応接間と書斎を隔てる
深紅のベルベットのカーテンには
かの特別注文の貞操帯。
中世・現代美術の名品と
名もないオブジェが渾然と
同列に配置されている。
作家・澁澤龍彦ゆかりの品々に
とり巻かれながらも
重圧感がない。
あくまで澁澤氏が
個人的に偏愛し蝟集した
コレクションに囲まれている。
会ったことのない他者が
見ている夢
その胞衣にくるまれるような
不思議な心地よさだけがある。
嗚呼、澁澤ワールド。
そこにぼくが立っているなんて
信じられない。
青い帳が降りてきた
作家の家の片隅で
そんな非現実感を
こころゆくまで
味わってみたのだった。
〔つづく〕

2013年5月1日水曜日

連休のコップ酒


〆切に追われて
ろくに庭も歩けずにいたら
いつのまにか
大銀杏の葉が
エメラルドグリーンから
若葉色に
変わりつつあった。



これはいかんとおもい
さっそく新緑の酒。
たぶん今年さいごの
筍の刺身を
古伊万里皿に盛って
一杯。

額賀章夫さんの
片口と
昭和初期の
硝子コップを
合わせて。
酒はもちろん
蓮田の地酒「神龜」。

「目には青葉」
はよしとして
「山郭公」
とまではいかない。
ウグイスの声を
ききながら
うすく黄味がかった
光を傾ける。

連休なんだし
たまには昼から
コップ酒も
味があっていい。