2015年3月31日火曜日

石田尚志「渦まく光」を観に





    去る3月27日金曜日、画家・石田尚志さんの大規模回顧展「渦まく光」のオープニングに招かれた。いま、横浜美術館で開催されています。
    尚志さんは、何度もこのブログで書いているように、ぼくの古い友人でもある。尚志さんとは、稀有な文学・映画批評家であり、詩人でもある生野毅さんを介して知遇を得た。一歳年上の画家を、ぼくはいまも昔も見上げ、追いかける格好だ。
    そんな画家の晴れ舞台は、ぼくにとってもすごく嬉しい出来事だった。展示もすばらしくて、近年の動向を踏まえた「第3章    身体」、最新作の「渦まく光」は刺戟的だった。会場ですこしだけ立ち話したのだけれど、石田尚志の純粋な姿勢は、作品の輝度とおなじく、以前と変わらない。そんなところも、アーティストとして信頼しているのです。どなたか、ぼくにこの展覧会について書かせてくれないだろうか!
    横浜美術館の展示を機会に、より多くの人に、石田尚志の作品を観てほしい。

2015年3月29日日曜日

『地形と気象』#16を更新




    庭の枝垂れ桜が八分咲きになり、お花見に格好の日となった。毎年、枝垂れ桜が咲きそろう日には、風が吹く。でも今年はほんとうにおだやかで、麗らかな好日がつづいている。
    一昨日の金曜日、左右社ホームページで連載中の定型リレー詩『地形と気象』のぼくの番、「#16」がアップされました。詩の舞台は、中国山東省の蘭陵。李白の「客中行」でご存知の方もいるだろう。詩人の足跡を訪ねた旅だったが、そこは山桜の名所でもあった。下記より、ぜひお読みください。


2015年3月26日木曜日

東北から、いまを生きる詩歌を



    岩手県北上市にある、日本現代詩歌文学館から「2015年度日本現代詩歌文学館常設展    いまを生きる詩歌」展の図録が届く。いまの俳句、短歌、口語自由詩の書き手たちが直筆の短冊や色紙、原稿を出品する展示。2015年3月17日から2016年3月13日まで、約一年間展示される。
    ぼくも依頼されて、新作「いま    この一瞬」を寄せています。お立ち寄りの方はぜひ、ご覧ください。ぼくと近い世代の現代詩人では、日和聡子さん、三角みづ紀さん、山田航さんが出品。展示期間中に、一度、お伺いしたいと思います。
    今年の「現代詩歌文学館賞」詩部門は八木忠栄さんの『雪、おんおん』(思潮社)が受賞された。八木さん、おめでとうございます。

2015年3月25日水曜日

新作の英訳詩



   和光大学などで教鞭をとられている、アメリカ現代詩の研究者にして翻訳者、遠藤朋之先生からファックスが届く。いま、ぼくの詩の英訳をしていただいているのだ。長年、エズラ・パウンドやゲーリー・スナイダーなどを研究しておられ、『現代詩手帖』などでアメリカ現代詩の特集があるときは、必ずといっていいほど翻訳やエッセイを寄稿されている。個人的には、思潮社からでている海外詩文庫『ウィリアムズ詩集』のオクタビオ・パスのエッセイの翻訳が記憶に残る。
    遠藤先生は年譜の執筆が非常に巧い。現代詩手帖特集版『アレン・ギンズバーグ』の「アレン・ギンズバーグ年譜」も編まれ、執筆されているのだが、この年譜が読み物として、とても面白いのだ。年譜は大事だ。年譜が魅力的だと、詩人の魅力も増す。ちなみに、ぼくが愛読する年譜はほかに、詩人の田野倉康一さん編の思潮社刊『田村隆一全詩集』年譜、鍵谷幸信先生の筑摩版『定本西脇順三郎全集』など。
    話が完全に脱線したけど、ぼくの詩は香港の文学者Dong Leeさんがエディットし、東アジア向けに刊行するポエトリー・マガジン(タイトルはまだ非公開)に収録される。ドンさんは、アメリカのブラウン大学でフォレスト・ガンダー氏に師事していた。遠藤先生は、ガンダーさんとともに詩人の白石かずこさんの選詩集を英訳されている。今回、ぼくの英訳詩は10篇が収録。写真の詩のタイトルは、「バオバブのかみさま」。初出が英訳詩です。

2015年3月23日月曜日

枝垂れ桜が咲いて




   庭の枝垂れ桜が、お彼岸の中日に開花。まだ1、2分咲きだが、古木の全身は薄紅色の固い蕾に化粧されていて。ほかに辛夷、木瓜、マンサク、桃の花が同時に、競うように咲きはじめた。その花を、花が大好きなヒヨドリたちが争って食べている。
   今朝は5時起き。仕事に行くまえに今冬刊行予定の新詩集の原稿を編み、整えていた。枝垂れ桜が満開のころには、初稿が完成していると思う。

2015年3月20日金曜日

おめでとう、岡本啓さん




   日本はお彼岸。 庭の辛夷の花が、そろそろ咲きそうだ。
   当時はワシントンDC在住で、2014年の「現代詩手帖賞」を受賞した詩人、岡本啓さんの第一詩集『グラフィティ』(思潮社)が、2015年のH氏賞に輝いた。

    岡本さん、おめでとうございます。

    岡本さんが手帖賞を受賞したのは、
詩人の福間健二さんとともに、ぼくが「現代詩手帖    新人作品投稿欄」の選者をさせていただいた年。
    受賞式は6月7日。当日、ぼくは岡本さんの依頼で、受賞祝いのスピーチをさせていただく予定。光栄です。

2015年3月18日水曜日

デルタ・ブルース詩篇を脱稿


    アメリカ最大級のブルースフェスティバル、デルタ/サンフランシスコ・ブルースフェスティバルでブルースミュージシャンとコラボする予定の長詩が完成。最終的には原稿用紙で20枚の長さになってしまった。明日、翻訳家さんに託される。レコード会社とやりとりしながら、ここまでこぎつけるのに4ヶ月近くかかってしまった。初出は英語だけれど、この長詩は今冬刊行予定の新詩集に収録するつもりです。タイトルはまだ公開できませんが、お楽しみに。

2015年3月16日月曜日

パリ、ロラン・バルトのブラッスリー






     パリを発つ前日はステーキを食べると決めていた。バスティーユの老舗ブラッスリー「ボファンジェ」Bofinger は1864年創業、パリジャンはオペラを観たあとはここで食事をするのだという。写真にはないけれど、300人は入れそうな店の奥には、ベルエポックの余韻がある大きな美しいステンドグラスの丸天井がある。この晩も超満員で、お客の1/3はパリジャンでもなければフランス人でもない。パリの王道ブラッスリーとして、いまでは知る人ぞ知るバスティーユ観光名所になっている。
   じつはロラン・バルトもたびたび来店していたとか。ぼくはバルトの学生だったという老婦人からこの店のことをきき、記憶にとどめていたのだ。彼女いわく、「70年代ぐらいまでは入りやすいブラッスリーでね。美食家のバルト先生はオペラやクラシックコンサートのあと、ここでよく食事してらしたわね」。brasserieとはもともとビアホールの意味で、深夜営業、わいわい飲んで騒ぐのが許されている店なのだ。
    ぼくはフランス語のムニュはほぼわからない。でも言葉のわからない異国ではそれなりの楽しみ方があって、完全に勘でオーダーする。無意識が選んだ一皿は、ときに思わぬ発見に導いてくれるからだ。「西洋人は詩集を読むようにメニューを読む」と田村隆一も書いていたから、前菜は三秒で即決。メインのステーキはわかるけれど。
    しばらくすると、前菜にエスカルゴが運ばれてきた。いくらぼくでも、escargotぐらい読める。でもジョン・ケージの教えに従い、偶然を偶然として享受した。すばらしいエスカルゴだった。いや、ほんとうに美味しかった。
    ワインはボルドーを懐かしみ、メドックを。ステーキは拍手をしたかったですね。料理はパリの最後の夜をしめくくるにふさわしく、大満足。お会計は、それなりに高かった。レストランよりは安いけど。レシートを見ると、品名はエスカルゴではなく、幻に終わった一皿。でも、エスカルゴより値段はだいぶ安い。担当の老ギャルソンは「あ、間違えちゃった。ま、いっか。どうせフランス語のムニュも読めない外国人だし」ぐらいのつもりだったのかも。ぼくに微笑んでくれたのは、どんな女神だったのだろう。

2015年3月14日土曜日

日野皓正を聴きにBlue Note Tokyoへ




     3月11日、南青山のブルーノート・トーキョーに久しぶりにゆく。日野皓正バンドを聴くためだ。
    メンバーはジョン・ビーズリー、ジョン・ハート、ジェームス・ジナス、ジェフ・テイン・ワッツ、そしてリーダーがトランペットの日野皓正という、豪華な布陣。ライブレポートが公式ホームページにアップされているので、そちらを読んでみてください。


   日野氏はニューヨークに住んでいるので、最近はなかなかライブを観ることができない。ギターのジョン・ハートを初めて生で聴けたのもよかったけど、ぼくのお目当はベースのジェームス・ジナス。ジャカルタのフェスでハービー・ハンコックのカルテットで弾いていたのを観て以来、大ファンなのだ。ライブの後、彼がレストランの厨房のドア付近でたたずんでいたのを見つけてしまった。話しかけると、気さくに握手してくれた。詩人のくせにペンを持ち歩かないのが祟り、サインを逃してしまったけど。ちょっとだけでもお話できて、嬉しかった。
    東日本大震災から四年後のこの日、ぼくが日野皓正バンドのライブを聴きたいと思ったのには理由がある。日野さんが東北のチャリティーをしているからだ。ぼくが観たのは1stステージ。一曲目はアメリカ深南部の葬送歌。そして、二曲目は東北に捧げた新曲だった。「Never forget 3.11」と、日野さん自らラップして会場が沸いた。バンドは5泊3日の日程で、タイのフェスから東京入りしたのだという。ステージで日野さんは、タイでは地元やアジアのミュージシャンたちが震災後の平和を祈り、演奏してくれたことを語ってくれた。それにもかかわらず、日本では原発推進の声がまだまだ大きい。
    Never forget 3.11!

2015年3月11日水曜日

長詩「見えない波」脱稿


    震災から四年が経つ3月11日の朝、長詩「見えない波」を脱稿した。原稿用紙で30枚。この詩は東北と、いまからちょうど一年前、東日本大震災を欧州五都市で語ったプロジェクト「見えない波」に捧げられる。初出はフランス語訳で、2015年冬に刊行予定の新詩集に収録するつもり。この長詩を書いているあいだ、ぼくはずっとシャルル・デュトワ指揮、ドビュッシー作曲の交響曲「海 La Mer」を聴いていた。
    さっき、ブルーノート・トーキョーの日野皓正バンドのライブから帰宅して、撮影しました。

パリの老舗ジャズクラブ



    パリはいまも昔もジャズミュージシャンの街。モンパルナスのジャズクラブ「ル・プチジャーナル」は、以前ご紹介した「サンセット」と並んで老舗中の老舗だ。バド・パウエル、マイルス・デイヴィスをはじめ、パリを好んだ数多の一流ミュージシャンが歴史を刻んできた。チャージは良心的で、店の構えも古きよきパリっ子のムード、じつに庶民的。写真では見えにくいけど、昼間は店頭でクレープの屋台をやっている。ちなみにここのチョコレートクレープは、ほんと、絶品。フランク・オハラの詩にも登場しますよね。ぼくなどは店の前を通るだけで興奮し、幸せな気分になる。
    十年以上前、初めてパリに来たとき、ぼくは中山康樹元編集長がスイングジャーナルに書いたエッセイを頼りにここを訪れた。聴けなかったけど、大西順子のトリオが出演していたっけ。思い出深いのは、映画監督のウディ・アレンがバンドを率いて演奏した夜。ウディ・アレンはクラリネットを吹いていた。プチジャーナルは、いまはディキシーランドなど、往年のジャズを演るバンドの出演が多いらしい。

2015年3月9日月曜日

パリ、ジュリアン・グラックの草稿展

 



   パリのトリヴィアのつづき。ソルボンヌ大学の近くにある書店。かの伝説の作家、ジュリアン・グラックの草稿展が開催されていたのに偶然、出くわした。その理由は、上の写真。第二次大戦期の草稿をまとめた研究書が上梓され、その出版フェアらしい。表紙にあるのが、グラックの手書き草稿の写真。店内はもちろん撮影禁止だった。
    点数はすくないものの、アンドレ・ブルトンとの親密な手紙や、1980年の『読みながら書きながら』 "En lisant en écrivant"などの草稿が飾られ、充実した展示だった。なによりグラックの自筆草稿。方眼紙に踊る、細字の万年筆でちいさく綴られた流麗な筆蹟を真近に見たときは、感動した。寡作にして秘教的な作風ともいえる文学者ゆえに、その肉筆を見ることができるなんて、夢にも思わなかった。
   パリにくると、こんなことも起こりえる。旅の僥倖にただ感謝して、近くのカフェで白ワインを呑んだ。興奮はなかなか冷めなかった。

2015年3月6日金曜日

河津桜が咲いた






   一昨日、庭の河津桜が開花した。いまでは三分咲きぐらいになってきている。藪椿はもうそろそろ終わりそう。
    今年は三寒四温の時期が長く、椿がよく保った。まだ春の葉野菜が畑に乏しいころ、ヒヨドリやツグミの群がきて、花を啄んでいたっけ。ちいさな体内に花が降り積もってゆくのを想像していた。待ち遠しい木瓜は、蕾がだんだんと膨らんできている。白い大ぶりの花が咲くころには、麗らかな陽に春風がそよいでいるだろう。
    春の足音がいよいよ近づいてきた。花見が楽しみ。パリのことも早く書かないと。つい、日本の春の音信を優先してしまう。毎年のことだけど。

2015年3月3日火曜日

高島大樹の春のうつわ



   三寒四温で風邪をひき、寝込んでしまった。次回から引き続きパリについて書くとします。今回はうつわの話。このあいだ友さん(写真家の赤阪友昭さんのこと)と行った、九段下のうつわ屋「花田」。白州正子も通った店だが、そこで母に頼まれて買ってきたのがうえのうつわ。
   高島大樹作、六角6寸市松皿を四客。皿とあるけれど鉢ほどの深さはある。ややグレーがかったマットな白釉は、春の青菜やおひたし、蕗の薹の天ぷらなんかをのせてもいいかも。ふだんづかいの食器で、正木春蔵とともに好きなつくり手だけど、それこそ白州正子と親交のあった作陶家、加藤静充を彷彿とさせる。そう思うのはぼくだけだろうか。高島氏のうつわはどちらかといば洋風だけど。
   加藤氏もそうだが、陶芸家というよりは食器の陶工に徹した潔さ、ゆえに暮らしの美を大切にする心が行き届いた作風だと思う。最近、気になる作家さんです。

2015年3月2日月曜日

『地形と気象』 #12 がアップ



  今朝は出版社の打ち合わせで神田神保町へ。昼は神田「いるさ」で写真家の赤阪友昭さんとランチミーティング。どうせ呑むんだからと、空き時間をつぶしにバー「ground line」に。竹鶴さんでにわかに脚光を浴びたブラック・ニッカ「初號」があったので、ワンショットもらう。スコッチの近況を愉しく話してから、マスター手淹れのカプチーノ。今日は卒業式が多いみたい。もうそんなシーズンなんですね。
   左右社のホームページで暁方ミセイさん、大崎清夏さん、管啓次郎さんとともに連載させていただいている『地形と気象』のぼくのターン、「#12」がアップされました。Jeffrey Johnsonさんの素晴らしい英訳も、大崎さんの#11まで付されています。すごいプロジェクトになってきました。下記よりぜひお読みください。