いま、二冊、書き下ろしの本を約束しており、がんばって、机のまえにいる。
とはいえ、季節は中秋をすぎ、ここちいい秋晴れで、田園を散策したり、秋の海のかがやきを浴びながら、相模湾のレストランで白ワインを呑んでいる自分をつい想像してしまう。
なにせ、一年でいちばん楽しみにしている季節なのだ。しょうがない。
息抜きにわが愛読書、吉田健一の『汽車旅の酒』を読んで、「呉」という地名を見れば、いつのまにか手帳の空欄をさがしている。「気が付いて見たら汽車に乗っていた」なんてことになりかねないのだ。
一冊の本は、原稿用紙で二百五十枚ぐらいなのだとか。今月はけっこう書いたつもりなのだけど、先は、ながい。詩は短距離走、小説は長距離走という。いま書いているのは小説ではないけれど(いまのところ、詩以外、ほかに能なし)。こうなれば、まれなマラソンを楽しみたいと思っています。
庭にでると、マユミが紅葉しかけていて、赤い実がもう四裂していた。どこかで、百舌の高鳴き。
イギリスの小説家ジェーン・オースティンは「秋は早く過ぎて、冬はくる。」と書いた。こうしてみると、戸外で秋を楽しみたい気もちをおさえながら、毎日執筆にとりくむオースティンさんの姿が見えてくる。小説家のいいたいことが、なんとなくわかる気がした。
今年はがんばって、早く秋を満喫したい。人生にまだ秋があるうちに。