あたらしい春の盃を手に入れた。
初期伊万里染付猪口。南青山の李朝を得意とする骨董屋で贖ったものだ。裏底銘に「大明」とある。つまり、1630
年代、延宝様式以前のもので、もっとも古い初期伊万里盃のひとつだ。柿右衛門窯の色絵染付、いわゆる「そば猪口」はまだこのころにはない。
古伊万里研究家の荒川正明氏編『静嘉堂蔵 古伊万里』の図録で確認したら、たしかにおなじ猪口が掲載されている。骨董屋さんいわく、この系統の盃は割れつぎされているものがほとんどで、状態のいいものは珍しいとか。
盃はかなり薄手で小ぶり。というのも、徳利にあわせたかったから。徳利は、H氏賞授賞のとき、詩人の城戸朱里さんからお祝いとしていただいたもの。伝世品の鶏龍山手で年代は不詳。ほぼ完器。風にそよぐ象嵌柳鳥文が春を思わせる。ややかしいだ姿とあたたかな刷毛目の色味は、燗酒にぴったりだろう。城戸さんのブログを読んでいたら、この徳利の話も登場した。ぼくがいただいたのは、城戸さんが所有する鶏龍山手徳利三本のうちの一本だったようだ。城戸さんのブログ記事は、こちら。
ぼくがいただいた徳利はややサイズが小さい。酒は1.3合が入るくらい。じつはこれだけ小ぶりな徳利だと、なかなかあう盃がない。古伊万里盃を手にするまえ、ある骨董屋で鶏龍山手の刷毛目盃を見せてもらったことがある。指三本ではつまめないほどちいさな盃で、てらてらに酒焼し、手ずれしている。譲価は120万円。すばらしい古格の盃だったが、完全にマニア向け。猫の水飲み皿といわれても信じてしまいそうなほど、一般人には汚れて見える。
この徳利にあう盃で、初期李朝はさすがに高価だった。となると、選択はおのずと限られてくる。さがすのに二年かかった盃、なんとか今年の春には間に合った。うれしくて、毎日のように徳利と盃をつかっていたら、徳利は早くも酒焼けしてきて、鶏龍山特有の黄粉がかかり、肌もすこしとろっとしてきた。来年は、この徳利と盃で、花見をしよう。
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