フランスから、EtienneさんとそのガールフレンドのLucilleさんが来日。旅館に泊まってみたいというので、湯河原温泉郷にお連れした。そのまえに、かれらは富士山に登ったのだ。
エティエンヌさんはボルドーの臨床心理医。昨年、フランスでの執筆滞在のときに、お世話になった方だ。パリジェンヌのルシルさんは、ロンドンで働いていたが、ボルドーに移住。いまはボルドーの名門ワイナリー「シャトー・ラトゥール」でマーケティングを担当している。なんとお土産に、2014年ゴールドメダルの2012年赤をもらってしまった。
漁師料理で有名な旅館に泊まって、温泉、ごちそう、温泉、三昧。鯛やサザエはもちろん、アワビや雲丹の刺身などをぬる燗で味わう。日本は初めてのルシルさんも、刺身が気に入った様子。最近は、ヨーロッパ人でも、魚がいける人が多くなってきた。ぼくもアワビの肝刺しを食べ、悶絶。さすがワイナリー勤務とあって、酒好きで、つよい。四人でビール三本、徳利五本あいた。フランスチームはさらに梅酒を一瓶。ぼくは、日本のウィスキー「竹鶴」の小瓶をいつもボストンバッグにいれているから、湯河原の天然水で水わり。湯河原の湧水には余韻さえのこるあまさがあった。
面白かったのは、ルシルさんの話。ある日本映画で食堂のカレーライスを食べるシーンがあり、それ以来、日本のカレーに憧れをいだいていたというルシルさん。築地の寿司屋より優先して、カレー屋にはいったそうな。ところが、あまりに辛くて、まったく食べられなかったとか。たしかに、ヨーロッパでスパイシーと名のつくものは、日本人にとってはまったく辛くない。ボンカレーの甘口も、ほとんどの欧州人には辛く感じるだろう。
それと、熱海でかの「寛一お宮」の銅像を見てしまった、ルシルさん。「あれは、男性が女性を足蹴にしているの?」と尋ねられ、ぼくは返答に窮してしまう。
そんな、他者から見える日本が、面白いのだ。
翌日は、ひどい雨。観光をあきらめ、旅館をでてからタクシーで権現山を登り、山腹の町営温泉施設「こごみの湯」へ。晩夏の山風に吹かれ、緑を眺めながら露天風呂。湯河原の温泉は無色透明。羊水と成分が似ているらしく、あまくやさしい肌合い。
日本を愉しんでもらえたら、うれしい。