2013年5月7日火曜日

澁澤龍彦邸訪問 其の壱


鎌倉、京都から帰ると
奇妙で美しい花
シャクヤクが咲いていた。
澁澤龍彦低にうかがってから
四日が経っていたのか。

5月3日に鎌倉を訪れ
詩人の城戸朱理さんと
マッドバンビ姉
現鎌倉文学館館長で
文芸評論家の富岡幸一郎夫妻
にお連れいただいて
澁澤龍子さんをお訪ねした。

数年前から城戸さんに
「澁澤龍彦さんが
素晴らしい古唐津盃を
所持されていたらしい。
夫人の龍子さんから
ぜひ遊びにと
仰っていただいているので
いこうよ」と
誘われていたのだった。

(澁澤邸内の写真は非公開。
悪しからず)

鎌倉の緑のなかの白亜の家
美しいカーブを描く
玄関ポーチの古さびた
欧風ドアが開くと
澁澤龍子さんが
にこやかに立っておられた。

金子國善「エロティシズム」
原画が飾られた玄関から
ハンス・ベルメールや
加納光於、加山又造などの
絵画が壁一面に飾られている
応接間へご案内いただく。
「このお宅自体が
もう美術館ですね」とは
富岡さんのコメント。
天井近くの壁面には
四谷シモン作の
純白の天使が永遠に飛翔して
ぼくらを見下ろしていた。
澁澤龍彦氏に捧げられた
かの人形。
どことなくお顔が…と
思っているとやはり
モデルは澁澤氏ご自身だそう。

「太陽」各誌で
とりあげられた
応接間にはヨーロッパの
アンティーク家具しか
置かれていない。
キャビネットには
頭蓋骨のレプリカ
オウムガイの化石
サソリの標本など。
応接間と書斎を隔てる
深紅のベルベットのカーテンには
かの特別注文の貞操帯。
中世・現代美術の名品と
名もないオブジェが渾然と
同列に配置されている。
作家・澁澤龍彦ゆかりの品々に
とり巻かれながらも
重圧感がない。
あくまで澁澤氏が
個人的に偏愛し蝟集した
コレクションに囲まれている。
会ったことのない他者が
見ている夢
その胞衣にくるまれるような
不思議な心地よさだけがある。
嗚呼、澁澤ワールド。
そこにぼくが立っているなんて
信じられない。
青い帳が降りてきた
作家の家の片隅で
そんな非現実感を
こころゆくまで
味わってみたのだった。
〔つづく〕

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