なかなかに風邪がなおらないのだが、原稿はまってはくれない。
ところが、気がついたら、電車にのって、茅ヶ崎へ。人間の逃避精神とはこわいものだ。われながら。
浜辺を散歩しながら、日没の相模湾をながめる。ウィスキー、というより、ブランディー色に枯れてゆく海だ。
そんなことを詩人ぽく感応すれば、なんとなくひと仕事した気分になる。探偵ならこうはいかない。さいきん好みのキリンのスタウトビール二本を買い、グリーン車で帰路へ。
そうだ、せっかくだから、海への供物として、ブランディーを呑もう。浦和で下車。「田楽」へ。
マスターの上甲さんにたのむと、マールをだしてくれる。
かの「ジュブレ・シャンベルタン・ドメーヌ・ドゥブレ」のシャンベルタン村(ブルゴーニュ)のマール。乾いた芳醇な葡萄の香りは、名門ワインのそれそのもの。
二杯目のときに、軍鶏の卵でつくったプリンももらう。ブランディーとカラメルのソースが、マールによくあった。
となりに女性はいないが、きょうも楽しく逃避行。22時、まだオフィスにいる編集者さんから、電話。
「石田さん、そろそろ、あがりました?」
「いえ、ちょっと、いまミューズとお会いしていて…」
「…バッカスのほうじゃないでしょうね?」
「……」
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