2015年10月22日木曜日

秋のブランディー



   なかなかに風邪がなおらないのだが、原稿はまってはくれない。
    ところが、気がついたら、電車にのって、茅ヶ崎へ。人間の逃避精神とはこわいものだ。われながら。

    浜辺を散歩しながら、日没の相模湾をながめる。ウィスキー、というより、ブランディー色に枯れてゆく海だ。

    そんなことを詩人ぽく感応すれば、なんとなくひと仕事した気分になる。探偵ならこうはいかない。さいきん好みのキリンのスタウトビール二本を買い、グリーン車で帰路へ。

    そうだ、せっかくだから、海への供物として、ブランディーを呑もう。浦和で下車。「田楽」へ。

    マスターの上甲さんにたのむと、マールをだしてくれる。
    かの「ジュブレ・シャンベルタン・ドメーヌ・ドゥブレ」のシャンベルタン村(ブルゴーニュ)のマール。乾いた芳醇な葡萄の香りは、名門ワインのそれそのもの。

    二杯目のときに、軍鶏の卵でつくったプリンももらう。ブランディーとカラメルのソースが、マールによくあった。

    となりに女性はいないが、きょうも楽しく逃避行。22時、まだオフィスにいる編集者さんから、電話。

  「石田さん、そろそろ、あがりました?」

    「いえ、ちょっと、いまミューズとお会いしていて…」

    「…バッカスのほうじゃないでしょうね?」

   「……」

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