ぼくの住む、埼玉の見沼。
江戸幕府八代将軍徳川吉宗により開墾された見沼は、かつては運河舟を交通手段とする広大な水田地帯だった。
悲しい哉、ぼくの子どもの頃と比較しても田圃は激減してしまったが、一二六〇ヘクタールにおよぶ都心近郊屈指の田園地帯として、緑ゆたかな土地のままである。
埼玉の銘酒といえば、銀座のカリスマ軍鶏料理店バードランドの和田さんが常備する「神龜」が、まず思い浮かぶ。しかし、まだまだ、埼玉にはかくれた銘酒があるのだ。
たとえば、入間の地酒「琵琶のさざ波」。良酒ならではの重みと米の香りのふくらみ、自然な甘さ。江戸前の魚はもちろん、鶏料理や蕎麦、精進料理にもあう。
さざ波は、夏限定生冷酒を買う。なぜかというと、見沼のソウルフード、鯉の煮付けとあわせるからだ。
金沢のどぜうの蒲焼から学んだことだが、川魚には、こい口といわれる、甘く、重たい日本酒がよくあう。ちょっと泥くさく、香ばしい 笑 風味の鯉の煮付けには、思ったとおり、さざ波の生酒がいけた。
この酒はそのまま呑むと、かなりのこい口なのだが、不思議なことに、甘く煮付けた川魚とあわせれば、かえって、さわやかな米の香りがたつ。
ちなみに、今日の鯉は残念ながら見沼産ではない。千葉は佐原の鯉です。さいたま市の川魚料理屋がかなり減ってきている話は書いた。見沼には、たくさん、鯉がいます。でも、釣っても、食べないほうがいいかも。
ぼくが中学生くらいまでは、近所に吉田屋さんという名魚店があって、注文しておくと、丸ごと一尾、鯉をあらいにさばいて出前してくれた。宝船にのっていたっけ。頭と鰭、がっしりした骨もついていて、母が鯉コクにしてくれた。
じょうずにさばいた新鮮な鯉は、ちっとも臭くなく、淡麗な刺身と魚油分の濃厚な鯉のみそ汁は、鰻なんかメじゃない活力をあたえてくれた。新潟生まれの祖母が、大好きだったっけ。
夏になると、あの味が、なつかしくなる。
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