きもかわいい、のきもかわではありません。魚のかわはぎときものこと。
ひさしぶりに四谷の寿司割烹「三谷」へゆく。かつて近所に住んでいたことがあり、ときおり足をはこんでいた。食雑誌などでよく取材されていたから、なかなか予約もとれなかった時期もある。待望の再訪だった。
ところが、この夕方、仕事先でのランチに食べたフレンチのコースが重く、おまかせの寿司までは完食がきびしかった。
自家製のからすみで一杯。酒は謹製白鷹大吟醸のぬる燗。三谷さんの燗は、五段階で温度差がつけられるという。吟醸酒も、三谷さんがつけると稲穂が咲いたような、フルーティな香りになる。吟醸酒こそ燗で、と三谷さんはいう。料理は白子の利尻昆布包み焼きからはじまった。岩塩の塊を長次郎のカナ下ろしですりかける。塩と白子のしっとり感がすばらしい。
竹麦魚の刺身、葱の天ぷらなんかもいただいたが、もうここでほぼギブアップ。三かんだけ握ってもらうことにした。
すなずり、そして、上写真の煮蛤。煮蛤は、下拵えしたものをその場でさっとだしで炊き、別煮のたれをすっとひいて江戸前海苔で巻く。握ったあとも、蛤の身はしゃりのうえでまだひらひらとおどっていた。
この日のお目当は、下写真の「きもかわ」。ねたのかわはぎのうえにのっているのは、その肝醤油。小説家の山口瞳は「シンコを食べなければ、私の夏は終わらない」と書いたけど、ぼくの場合は「きもかわを食べないと、冬はおわらない」のだ。
脂ののったかわはぎの、あまやかな芳醇。最後にぴりっとくる、磯の香りと、きものにがみ。冬の味覚を象徴するものが、ちいさな、ひとくちの寿司に秘められている。
ああ、これで。ことしも冬とおわかれすることができた。
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