先日の神田古書店のイベントのときも、非常にせまい喫煙室で愛煙者の詩人たちと肩を寄せあうように一服した。文字通り、肩身がせまい。
城戸朱理さんは、「煙草が1パック千円になったら、さすがに喫っていたくないよ」とおっしゃる。杉本真維子さんは、なんとCOLTSの手巻き紙煙草を愛煙していた。
煙草は、ぼくにとって、筆記用具ですらある。前回ご紹介させていただいたボールペン、ノート、そしてこの煙草がないと、書けない。
ここ十年、愛煙しているのは、フランスの大衆煙草「ゴロワーズ」。ゴロワーズの両切煙草「カポラル」は、ゴダールの初期映画でもおなじみ。ぼくのはフィルター付きの「レジェール」。葉巻に似た味と馨が好きで喫っています。
ライターは、スターリング・シルバーのジッポーかビックの百円ライターを愛用。あと、京都にいったときはかならず「イノダコーヒー」の百円ライターをまとめ買いしますね。愛煙家のささやかな連帯の合図として、煙草服みの友人知己にさしあげたり。
純銀のジッポーは、もうこれで三つめ。ジッポーはいちばんシンプルな銀製のものしかつかわない。が、だいたい泥酔して、なくす。ロバート・B・パーカー「スペンサー・シリーズ」などの装幀を手がけられた伝説のデザイナー、戸倉巌さんからいただいた二つめを紛失したときは、ショックで、二度とジッポーは手にすまいと誓った。
とはいえ、この三番目の銀ジッポーは底に「2007」の製造年が刻印されている。来年で購入十年目。なんとか、十年、ぼくの掌で炎を灯しつづけてくれた。
ゴロワーズのパッケージは原産国フランスでも、シンプルで、すぐれたデザインとして長年人気があった。ゴロワーズ・ブルーとよばれる特色の水色。フランス人の祖先といわれるゴロワーズ(ガリア人)の兜のイラスト。
現在、EUでは、いかにも毒々しい警告文や肺の写真がパッケージの1/3を占めている。これが法的義務化され、グランド・デザイン史上屈指といわれるゴロワーズ・カポラルの美しい包装を汚したとき、パリの友人たちは悲嘆していた。大衆文化の破壊、全体管理社会による暴力の視覚化。
ほんとうに皮肉な話だが、いまいちばんきれいなゴロワーズを買えるのは、煙草包装紙の視覚的規制に慎重な日本なのだ。ぼくが喫煙をあきらめるときがくるとすれば、文化としての煙草が死ぬとき、だと思う。
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