2013年6月25日火曜日

谷中のBEATイベントへ


右:中上哲夫さん 左:八木幹夫さん




6/23日曜日
日暮里の谷中ぎんざ
夕焼けだんだん
入り口すぐそばの
古書店「信天翁」さん
(あほうどり、と読む
詩の本のセレクトも
とてもいいですよ)
で開催された
詩人の中上哲夫さん
八木幹夫さんによる
「What was the
BEAT GENERATION」
イベントにでかける。

中上哲夫さんは
もちろん
ビートの紹介者にして
ケルアックや
ギンズバーグの訳者など
いわゆる「路上」派の
代表格として
有名だけれど
八木幹夫さんが
ビートというと
意外な気がしたのだ。


中上さんと八木さん
の出会いは
三十年前に
さかのぼる。
八木さんが
当時相模原市に
住まわれていた
中上さんに
手紙をだし
橋本の喫茶店で
午後三時頃から
えんえん
ノンストップで
日本やアメリカの詩に
ついて語り合った
のだそうだ。
その日は奇しくも
大晦日で
除夜の鐘が鳴りだす
ころまで
コーヒー数杯で
ねばったのだそう。
以来、詩人の
辻征夫さんが
発起人だった
「余白句会」など
三十年におよぶ
詩的交遊がはじまった。
大晦日に
二人の詩人が
地元のローカルな
喫茶店で出逢う。
このエピソード
そのものが
ビートっぽい。

イベントは大盛況。
ビートのイベントとあって
サンフランシスコにある
シティライツ書店の
エコバックを
持った観客が多い。
原成吉先生や
詩人の富沢智さん
昨年刊行され
ビート女性詩人たちも
収録されている
翻訳アンソロジー
『現代アメリカ女性詩集』
(思潮社)の訳編者のひとり
小川聡子さんも来店。
ビートの同時代人によって
語られる詩的証言は
さすがに臨場感があって
ビート入門編から
日本の「路上」派まで
話をきけて
とてもよかった。

黄色のアロハ
バギーパンツに
ワークブーツという
いでたちの中上さんは
昭和三十六年に
那須書房から
限定五百部刊行の
古沢安二郎訳
『咆哮』を持参。
アレン・ギンズバーグの
記念碑的な詩集
「HOWL」の
日本で最初の翻訳であって
いまは「吠える」で
知られている。
「古本屋で当時
百円で買ったんだよ」
と中上さん。
その「HOWL」の
ホイットマン的な
行頭反復にふれつつ
「詩人の仕事で
もっとも難しいのは
自分のスタイルを
確立すること」と
おっしゃっていたのが
印象的だった。
また「ビートは
個々の詩人の
つながりであって
運動体ではなかったん
じゃないかな」
という発言にも納得。

中上さんは新刊
『ジャズ・エイジ』
(花梨社)で
第28回(2013年)
「詩歌文学館賞」を
受賞されたばかり。
今年の三月
ぼくが北上の
日本現代詩歌文学館を
訪れていた折り
学芸員の方から
「いままさに選考中です」と
お話を聞いていたので
なんだか不思議な縁を
感じてしまい
また愛読者としても
受賞のニュースは
とても嬉しかった。

八木幹夫さんは
『ジャズ・エイジ』に
ふれられて
「この詩集は
『HOWL』や
シティライツ社の
ポケット・ポエム・
シリーズを
モデルにしていて
中上さんは
昔からずっと
ワンコインで
買えてどこでも
携行できる
身軽で風通しのいい
詩集をだしたいと
いってたんですね。
髪の毛も・・・
失礼、紙も
だいぶ薄いでしょう。
(店内爆笑)
これがでたとき
中上さん
ついにやったな!
とおもいましたね」
さすがは八木さん
ほんとうに名司会
名トークだった。
最後は八木さんが
中上さんの
『アイオワ冬物語』から
「アイオワの
風に吹かれて」を朗読。
もっとずっと
聴いていたい会でした。

閉会後は店内で懇親会。
ぼくは中上さんと
八木さんから
サインをもらう。

それから近くの
お好み焼き屋
「小奈や」に
場所をうつして
(谷中の名店だそう
うまかったです)
打ち上げ。
そこでも
BEATALKがつづく。
中上さんに
「ビートを最初に
日本に紹介したのは
だれでした?」と
尋ねると
「片桐ユズルさんかなあ。
当時アメリカに住んで
おられたから
『おい、ギンズバーグ
って詩人がすごい』とか
彼のところには
リアルタイムで
情報が入ったんだよ」
つぎは『ジャズ・エイジ』
がらみで
「好きなジャズ
ミュージシャンは?」
と質問すると
「マイルス。
おれは
ペットやホーンが
好きなんだよね。
いまのは
ほとんど聴かないよ」
だそうです。

「信天翁」のみなさん
いい会を開いてくださって
ほんとうに
ありがとうございました!

2013年6月20日木曜日

旅の本棚から


新しい詩集が届く。
和合亮一さんの
『廃炉詩篇』
(思潮社刊)。
新宿の高層ビルの
灰色の谷間にある
公園のベンチに
腰かけて読みはじめたら
止まらなくなって
一気に読了。
すばらしい
詩集だった。

「廃炉」という
いまのぼくらにとって
生の切実な話題であり
政治的なテーマを
あつかう
和合さんの手法は
徹底して
シュルレアリスティック
なのだけれど
超現実であるはずの詩が
これだけ
いま=ここの
リアルと未来にたいする
喚起力をもっているのは
なぜだろうか。
シュルレアリスティックな
手法でも
現実世界に迫り
語ることができる
ことを示し得た
希有な詩的証明だとおもう。

その詩は
「廃炉」という
大きな物語を
ただ沼をならんで泳ぐ鯉を
見て涙してしまう
といった
いまの福島における
存在と生の
ちいさな奇跡からも
物語ろうとしている。

アンドレ・ブルトンは
ロートレアモン伯爵
『マルドロールの歌』中の
「手術台のうえでの
ミシンとこうもり傘との
出会いのように美しい」
という詩句に驚嘆しつつ
超現実の現代性を
「今日では、あらゆるものが
反対のものへと沈殿する」
と説いたけれど
和合さんの詩も
現実を超現実によって
生を死によって
「廃炉」を個の主体によって
記憶を忘却によって
信頼を疑いによって
世界を消滅によって
涙を炎によって
ぼくらのこころの
奥底へと
沈殿させてゆく。
詩という
限りなく遠い
言葉の振幅によって
かえって
ぼくらに
「廃炉」への
至近の言葉を
手にさせようとする。
その視線がきわめて
現代的だとおもうし
言葉の絶対を疑うことから
光をつかもうとする
詩の切実にして
希有な冒険だとおもう。
これから
どんな評価をうけてゆくか
楽しみな新詩集です。


Webで世界に
公開されていた
ウォルト・ホイットマン
『草の葉』初版が
富山英俊さんの訳で
ついに日本語で
楽しめるようになった!
(みすず書房刊)。
鮮やかな萌葱の装幀が
『草の葉』に
なんともマッチしていて
梅雨の鬱陶しさを
吹き飛ばしてくれる。
さすがの編集手腕は
詩人
浜田優さんのもの。

ウル『草の葉』は
その後
連綿とつづく
改訂版と比べると
だいぶ印象がちがう。
でもその原石は
逆説とためらいに
みちていながら
よりつよく率直に
セクシュアリティや
アメリカという
政治共同体にたいする
理想と輝きを
まとっていた気がする。

アメリカの小説家・詩人
レイモンド・カーヴァは
「アメリカ文学の
すべての主語は
ホイットマンの
『ぼく』だ」と
印象的なフレーズを
のこしていたっけ。

自然や女性
他民族のみならず
アメリカという
国家とまで
渾融してしまえる
ホイットマンの
「ぼく」は
大河のような一人称だ。

その「ぼく」の
初源の輝きを
手ざわりできる
フレッシュで
わかりやすい
すばらしい翻訳と
解説・訳注で
若きホイットマンの
言の葉を
これからも
繰り返し
舌のうえで
味わってゆきたい。

2013年6月18日火曜日

H氏賞 受賞プレゼント その3





6/16は父の日と
母の誕生日が
かさなったので
ぼくと妻で
夕食をつくることに。

H賞のお祝いで
小説家の
古川日出男さん
千枝さん夫妻が
くれた
POLIのグラッパに
あわせようと
イタリア家庭料理に
してみる。

妻も
フランスの
白アスパラガス料理
などをつくってくれた。
(これはぼくも
大好きな料理なので
改めてご紹介)

プリモの
しじみのパスタは
ぼくが好きだった
青山のトラットリアの
まかない。

セコンディは
イタリア家庭料理の
代表格
パンチェッタ
(豚肉のトマト煮)。
ぼくのは
アンチョビと
オリーブを入れる。
以前、ぼくが
日本語を教えるかわりに
翻訳家の
イタリア人女性から
習った料理。

ポーリは
ヴェネツィアに
博物館も有する
グラッパの老舗。
古川夫妻が
くださったのは
「SARPA」(最高級)
ボトルも手吹きの瓶。
ガラス越しにまで
グラッパの
馥郁たる香りが
こぼれでて
すばらしく
おいしかった。
まずストレートで味わい
食後のコーヒーにも
滴していただく。

グラッパというと
ビクトル・エリセの
映画『エルスール』
レストランでの
結婚式のシーンが
思い浮かぶ。
みんなグラッパを
ぐいぐい呑み
楽しそうに
すごく酔っぱらって
踊っていた。
だからグラッパは
幸福をよぶ酒
という
イメージがある。

ほかにも
いろいろなものを
たくさんの方々から
いただきましたが
プレゼント
については
ひとまず終了。
(外出が多く
更新が遅れまして
すみません)

Salute!

2013年6月10日月曜日

H氏賞 受賞プレゼント その2


作家 澤村修治さんのプレゼント
シャマレルのラム


詩人 岡野絵里子さんのプレゼント
バカラのショットグラス



先週はお礼状を書いたり
受賞の取材や原稿
広告関係の仕事に
追われていたけれど
やっと少しづつ
ペースが戻ってきた。

ずっとお預けだった
プレゼントを
開けることができる。

作家の澤村修治さんが
くださったのは
アグリコールラムの名産地
モーリシャスにある
シャマレル社の
コーヒーラム。
無添加の最高級ラムは
非常にメロウな味わいで
すっきりした吞み口。
プレミアムホワイトラムに
コーヒービーンを
漬け込んだものだそうだ。
アグリコールは
食後酒として逸品なれど
レストランで呑むと
とっても値段が高いので
たいがい諦めざるをえない。
嬉しいです。

岡野絵里子さんが
くださった
バカラの
ショットグラスは
ぼくなどには
手がでなかった
あこがれの品。
説明不要の
綺麗さ。

十九時前
終業すると
スコッチを一杯
呑むのが習慣。
今日は青い夕闇に
ラムを浮かべ
いつまでも
クリスタルの檻に
とらわれた
落日の光に
見蕩れていた。

2013年6月7日金曜日

H氏賞 受賞プレゼント その1




H氏賞受賞のお祝いに
親戚たちが
お金をだしあって
万年筆を
プレゼントしてくれた。

GRAF VON FABER-CASTELL
スターリングシルバー
ペン先は十八金。

モンブランや
ペリカンとくらべ
ファーバーは
後発というイメージが
あったけれど
めちゃくちゃ書きやすい。

ペン先は紙にすっと
吸い付き
インクの走りも滑らか。
ほどよく腰のある
書き味で
紙をひっかいて書くような
感じがまったくない。
ウッドを巻いた
純銀のペン軸は
ずっしりと重厚で
手によくなじむ。

ぼくにはちょっと
もったいないようなペン。
このペンに見合うような
いい詩を書いてゆきたいです。
どうもありがとう!

2013年6月4日火曜日

H氏賞贈呈式が終了


6月2日
「日本の詩祭2013」において
H氏賞贈呈式が
無事終了しました。

八木忠栄会長
山田隆昭理事長を始め
日本現代詩人会
H氏賞選考委員
「詩祭」実行委員の皆様
ほんとうに
ありがとうございました。

とても盛大な会で
1000名以上の
ご来客があったとのこと。
さすが歴史ある
「詩祭」でした。

斉藤征義選考委員長
ならびに
城戸朱理さんは
受賞作『まどろみの島』(思潮社)
について
素晴らしいスピーチを
してくださいました。

鹿児島から
いらしてくださった
高岡修さんを始め
数々の詩友
(というか大先輩)
の皆様

小説界から
古川日出男・千枝夫妻
アメリカ現代詩研究から
原成吉先生
現代アートの世界から
石田尚志さん
思潮社の
髙木真史総編集長
(花束をありがとうございました)
装幀家の
奥定泰之さん
中央公論新社の
横手拓治編集長
角川GH・角川書店の
垣貫真和さん
をはじめ
出版・広告界からも
大変ご多忙の折
たくさんの方に
ご来場いただき
お礼申し上げます。

これからも
精進しますので
応援を
よろしくお願いいたします。

2013年6月1日土曜日

中村活字の名刺



梅雨入りした横浜から
戻ったら
もう明日はH氏賞贈呈式。

この機会に
いろいろ新調したいな
と思ったもののなかに
名刺があった。

上写真の名刺は
中村活字店謹製
活版印刷の名刺。

表には氏名のみ。
詩人だから
肩書きはいらない。
裏には電話・
FAX番号、住所、メアド
と最低限の記載。

字体は
いわゆる「新聞明朝」。
「ピース紺」という
黒に近い紺で
印刷してある。
(煙草のピースの箱と
同じ紺色です)
紙はシルクコットン
本の表紙などに使われる
高級上質紙。
印刷はもちろん
活版印刷。

活版で組んだ名刺は
独特の温かさがある。
読みやすさと
美しさを追求した
新聞明朝は
字体に深みがあるし
使っていて飽きない。
銀座で九十年つづく
中村活字店の名刺は
編集者やライター
デザイナーが愛用していて
玄侑宗久さんのつくった
名刺もあった。
ぼくが初めて
中村活字の名刺を
先輩の編集者から
プレゼントされたのは
十数年前
ライターとして
独立したとき。

明日はこの名刺にも
ご活躍願おう。