2015年8月30日日曜日

フランスからの客人





   フランスから、EtienneさんとそのガールフレンドのLucilleさんが来日。旅館に泊まってみたいというので、湯河原温泉郷にお連れした。そのまえに、かれらは富士山に登ったのだ。
    エティエンヌさんはボルドーの臨床心理医。昨年、フランスでの執筆滞在のときに、お世話になった方だ。パリジェンヌのルシルさんは、ロンドンで働いていたが、ボルドーに移住。いまはボルドーの名門ワイナリー「シャトー・ラトゥール」でマーケティングを担当している。なんとお土産に、2014年ゴールドメダルの2012年赤をもらってしまった。
    漁師料理で有名な旅館に泊まって、温泉、ごちそう、温泉、三昧。鯛やサザエはもちろん、アワビや雲丹の刺身などをぬる燗で味わう。日本は初めてのルシルさんも、刺身が気に入った様子。最近は、ヨーロッパ人でも、魚がいける人が多くなってきた。ぼくもアワビの肝刺しを食べ、悶絶。さすがワイナリー勤務とあって、酒好きで、つよい。四人でビール三本、徳利五本あいた。フランスチームはさらに梅酒を一瓶。ぼくは、日本のウィスキー「竹鶴」の小瓶をいつもボストンバッグにいれているから、湯河原の天然水で水わり。湯河原の湧水には余韻さえのこるあまさがあった。
    面白かったのは、ルシルさんの話。ある日本映画で食堂のカレーライスを食べるシーンがあり、それ以来、日本のカレーに憧れをいだいていたというルシルさん。築地の寿司屋より優先して、カレー屋にはいったそうな。ところが、あまりに辛くて、まったく食べられなかったとか。たしかに、ヨーロッパでスパイシーと名のつくものは、日本人にとってはまったく辛くない。ボンカレーの甘口も、ほとんどの欧州人には辛く感じるだろう。
    それと、熱海でかの「寛一お宮」の銅像を見てしまった、ルシルさん。「あれは、男性が女性を足蹴にしているの?」と尋ねられ、ぼくは返答に窮してしまう。
    そんな、他者から見える日本が、面白いのだ。
    翌日は、ひどい雨。観光をあきらめ、旅館をでてからタクシーで権現山を登り、山腹の町営温泉施設「こごみの湯」へ。晩夏の山風に吹かれ、緑を眺めながら露天風呂。湯河原の温泉は無色透明。羊水と成分が似ているらしく、あまくやさしい肌合い。
    日本を愉しんでもらえたら、うれしい。

2015年8月28日金曜日

田園のpoesy




   よく田園を流れる川原に、犬と散歩にいく。

    今年は温暖化のせいもあり、キュウリなどの夏野菜が早く終わり、だんだん稲穂が色づいて首をしたにさげはじめた。田にはうっすら、ふくよかな米の香りがただよっている。
    野鳥たちも、夏鳥がすこしづつ姿を消して飛び去り、いれかわりに冬鳥たちが飛来をはじめた。ギョシ、ギョシと鳴いていたオオヨシキリやホホッホ、フッフーと鳴くチョウゲンボウの声は絶え、スズメに似た美しい小鳥、セッカや貪欲なムクドリの集団がやってくるのだ。

    川原に近年できたビオトープの鉄柵に、奇妙な植物が巻きついていた。よく見ると、ヒョウタンに似ている。さらにアザミに似た花とトゲがある。持ち帰って活けてみた。写真のアバンギャルドなやつが、それです。でも、牧野博士『野草図鑑』で調べると、栽培用のヒョウタンの花は、白い。花形も、それこそ瓜に似た花だ。
    あとで農家のおじいちゃんにきいてみると、「そいつはヒサゴだぁ」との由。瓢。結局、ヒョウタンてことなんだけど。グラスを傾けながら一時間ほど調べたが、こいつのほんとうの名前はわからずじまいです。それがまた、いい。名前のついている存在なんて、ほんのわずかしかないのだ。世界はまだまだ名前のないものでみちている。西脇さんみたいに、おおポポイ!とただ感嘆し、乾杯しよう。

    そんな見沼の田園の諸存在たちに囲まれる日々が、新詩集『耳の笹舟』を生んでくれたように思う。その最終の再校ゲラを見終わったばかり。明日、速達で送る。
    読んでいただければわかりますが、とくに小鳥たちにはお世話になった。夏鳥たちの羽音とともに、いま巣立ちのとき。

2015年8月26日水曜日

詩人はバーにいる?





   商業的な文章のゲラを戻し終えると、新詩集の再校と、佐峰存さんの第一詩集『対岸へと』の栞文のゲラがもどってきていた。
   横浜で仕事があったから、夕飯も食おうと桜木町へ。ついでにゲラも見よう。そうだ、新しくなったインターコンチネンタル・ホテルのバーがいい。能率もあがりそうだ。ということで、ベイエリアに向かった。
   まずは、お決まりのモヒート、からのマティーニ。つづいて、バーテンダーも頼んでみる。ステアもなかなか上手だ。うん、おいしい。インターコンチネンタルのバーは、もとはラウンジだったところにカウンターが併設されたもの。港の展望がよくなった。台風15号が接近する灰色の空と海を眺めつつ、若手バーテンダーFさんとおしゃべり。このあいだお泊りになったお客様ですよね。うん、そう。よく憶えてますね。ええ、深夜の閉店までいられて。あの夜はお客様が少なかったですが、ずいぶん呑まれましたよね。ここはあまりカクテルがでないので、ひさしぶりにたくさんシェーカーをふった気がしましたよ。
    ホテルをでて、オレンジ色に光る海岸沿いを、ほろ酔い気分でぶらぶら歩く。黙祷のような散歩。それから市役所通りの老舗バー「ジャック」へ。クラフト・ビールとバーガーで食事。

    帰宅は湘南新宿ラインのグリーン車。横浜限定販売のスモーク・柿ピーとウィスキーの水わりを買い込んで。そして、家の最寄り駅で下車しようとして、気づく。

    あれ?おれ、ゲラ、見たっけ?

2015年8月24日月曜日

夏の終わりに




    昨日、表千家師範の母が、「朝茶」をする。朝茶とは、風炉の夏の時季、早朝に催す茶会のことで、朝の4時半に着物姿のお社中がおこしになった。
    ぼくは席につかなかったけれど、ともに早起きして、盆休み明けのゲラの山をくずしにかかった。
    朝茶になると、もう夏が終わるのだな、と思う。まだ夏休みもとれていないが、今年の後半がスタートしたのだ。
    9月末には、ぼくはブルースミュージシャンとのコラボのため、アメリカへ。10月に新詩集がでる予定だけど、刊行後はイベントがつづく。11月は、国民文化祭の鹿児島大会に出演。こう考えると、夏休み、とれるのだろうか。そろそろ、来年に予定されているイギリスでのプロジェクトのための連絡もとりあわなきゃだし。
    昼前にすこしゲラを返せたので、わが夏の酒器、古唐津皮鯨皿をだしてきて、猫のように会席にだけ顔をだし、御酒をおすそわけしてもらう。今年は忙しくてほとんどつかえなかったな、この皿。縁側で茶庭を眺めつつ、一献。また注いで、ふと酒の入った皮鯨皿を苔のなかに置いてみる。庭石も盃も、日本の造形は水に濡らしてみるとよくなる。「自然」になる、というか。古唐津も古池のごとく、苔の庭と調和した。
    そんなひとり遊びの晩夏の午。風もだいぶ涼しくなってきた。

2015年8月19日水曜日

『地形と気象』#36が更新


    お盆休みはどうでしたか?
    ぼくの夏休みは、まだ先になりそう。

    さて、詩人の暁方ミセイさん、大崎清夏さん、管啓次郎さんと左右社ホームページに連載している定型連詩『地形と気象』のぼくのターンが、昨日、更新されました。
    ぜひ、お読みください。


    今回は、イギリス詩でいうサタイア、政治的な風刺詩を意識してみました。

    後半が、ちょいファンキーだったかも。ツイッターの反応もふくめ、だんだん盛り上がってきているようです。ぼくは、ツイッター、できないのですが。

    次回の更新時は、アメリカかもしれません。
    引き続き、おつきあいください。

2015年8月12日水曜日

お盆を迎える〜お休みのお知らせ


    墨と筆をつかう機会があったので、思いたって書いてみた。
    「ひょうがむよう」と読みます。
    浄土宗三部経のうち『仏説無量寿経』の言葉で、「兵も武器もいらない」という意味。「国豊民安」(国が豊み民が安らかであれば)という一節につづきます。
    昨日、世論調査では大多数の反対を無視して、川内原発が再稼働。政府と官僚、電力会社はそれを「国豊」とした。しかし、本当の豊さとはなんだろう。そこには「民安」がなければならないと、阿弥陀如来は説かれている。
    
    みなさん、よいお盆をお迎えください。次回、8/18までブログはお休みいたします。

2015年8月10日月曜日

盆の月、多摩の一夜



    アムステルダムで知りあった現代アート作家で東京芸術大学講師の梅花皮衛さんが、なんと、ぼくを囲む会を開いてくださる。会場は多摩丘陵にある氏の自宅。
    とはいえ、奥様が築百年の納屋を改築したすてきなギャラリーカフェをひらいており、すでにイベント化していた。梅花皮さんを司会に、氏の作品をまえにトークと朗読を少々。とても親密で、すてきな会でした。おもしろかったのは、親子づれの方が多かったこと。芸大、多摩美の生徒さんもきてくれて、子どもの相手をしていたのが、ほほえましかった。ご来場のみなさん、ありがとうございました。
    多摩の地ビール「多摩の恵」をワンケース差し入れてくださった方がいた。聞けば、野口酒造の専務さん。酒造自家製の奈良漬、そして、おお!近年はわが故郷見沼でも見なくなった、イナゴの佃煮を持参してくださった地元の方も。ぼくは、山形出身のお客さんが差し入れてくださった「米鶴かっぱ 特別純米吟醸大辛口」をおともに、ばりばりと食べた。イナゴは、栃木は佐野出身の亡くなった祖父が好んで、よく食べていたっけ。きっと、ふるさとの味だったのだろう。
    暗くて写ってはいないが、酒瓶をもって、みなさんと田んぼに涼みにでた。蛙の声明。そして、鈴虫の声もまじっている。おおきな、おおきな、盆の月がでていた。仏教では月光を乗り物に、仏が現世に帰ってくるといわれている。今月十三日は見沼も迎夜。きっと、いい月がでていると思います。

2015年8月7日金曜日

田楽でワインまつり






   今週はエッセイ二本、詩一篇を入稿。ブログの更新が遅れてすみません。
   晴れ晴れとした気分で、浦和の焼き鳥や「田楽」にいったら、常連さんと遭遇。ワインまつりに突入した。
    マスターの上甲さんが仲良くしているローヌ地方のつくり手、ムシュー・エマニエル・レイノーのワインが中心。押しも押されぬレイノー氏だが、いまやほんとうに入手困難なワインになってしまった。まずはスパークリング、ラングロワで乾杯。2011年のシャトー・トゥーズの白からはじめて、2006年のヌフ・デュ・パプの赤。グルナッシュ100%。いまは市販価格で、ボトル二万円前後だとか。
    夏休みまえだからか、みな、宵越しの金は持たねえ的な危険なゾーンにさしかかり、「ジャン・ルイ・シャーブ氏のエルミタージュ、いこうぜ!」「イェー!」となる。上甲さんに、シャモのレバーを丸ごと、かぎりなくレアで焼いてもらう。絶品。沈黙。天使がとおる。
    今夜も、財布のなかは、からっぽ。でも、いいお盆が迎えられそう。

2015年8月4日火曜日

夏のカクテル〜神保町のバーより



    暑中見舞い申し上げます。

    アメリカ現代詩の研究者で大学講師の友人と神保町で呑む。気温は37度をこえていた。最初は焼きトン。ジョン・アッシュベリー、エリザベス・ビショップの話。
   まだ呑み足りなかったから、行きつけのバー「groundline」に誘う。
    あまりに暑かったので、ふたりとも黙りがち。
    ぼくはモヒート、バラライカ。南半球と北半球を、アルコールの回帰線でひとっ飛び。これがぼくの夏の定番コース。彼はテキーラをショットグラスであおっている。
    ふたりでいても、ひんやりしたバーの空気は、どことなく孤独のにおいがする。
    ヒートアイランドのオアシスで、言葉もなく、呑む。

2015年8月1日土曜日

Fourteen Hillsに詩が掲載



   ステファン・アルバーが印象的なカバーアートを手がけるアメリカはカリフォルニアのポエトリーマガジン、『フォーティーン・ヒルズ』に詩が英訳掲載されました。
   ホームページのリンクはこちら。


   掲載作品は「Right Brain Patrol」、「Afro Blue」の2篇。いまとりくんでいる連作詩「Asian Dream」のために書いた作品で、ジャズを下敷きにしている。前者はビル・エヴァンス・トリオ最後のベーシストとしても知られるマーク・ジョンソンのオリジナルナンバー。後者は、ご存知、ジョン・コルトレーンの名曲で、ポーランド出身のトランペッター、トーマス・スタンコによるカヴァーだ(連作詩のコンセプトは、本ブログでも6/26に書いたので、よろしければごらんください)。  
 「Asian Dream」、これで今年は6篇がすでに掲載されている。『フォーティーン・ヒルズ』は、詩人アン・ウォルドマンも応援しているらしい。作品が掲載されて、うれしかったです。