2016年8月31日水曜日

詩人のパスタ?


   母からイタリアのリコッタチーズをもらう。

   これはもう、あれしかないと思い、昼食をつくった。

   「貧乏人のパスタ」。スパゲッティ・デル・ポヴェッロ。

    以前、ともに仕事をしたイタリア人のマンマから、日本語を教えるかわりに、イタリア家庭料理を習ったことがある。
    マンマはミラノの方の生まれと記憶しているが、おかげでニョッキもトルタも自分で「ぶてる」ようになった。ぼくのつくるトリッパは、旨いよ。

    さて、この貧乏人のパスタ。

     グーグルを検索すると、目玉焼きをのせたレシピが多い。ぼくはそう習わなかったのだけれと、これはイタリアの地方料理の差異といっていいと思います。

    ぼくのは、パスタをアルデンテに茹でて、バージン・オリーブオイルとリコッタチーズで和え、さいごにひきたての黒胡椒をふるだけ。貧乏人より、貧乏人だ   笑   「詩人のパスタ」とでも、名づけようかしらん。

    ただし、スパゲッティはバリラ社のデュラム1.7㎜。オリーブオイルは北イタリアのイスナルディ。本物のバージン・オリーブオイル。そして、チーズは、リコッタチーズでないと、だめ。スパゲッティとリコッタチーズ以外は、パスタ・ビアンコに近いですね。

    窓の外は、初秋めいて、さわやかな快晴。

    シチリアの、白というより透明な、超辛口ワインとあわせて、台風に、チャオ!(だと、いいけど)。   

2016年8月29日月曜日

秋桜と古本


 

 関東につぎつぎ台風が飛来するなかでも、ぼくは日々、遅々として机上にある。あゝ泰平哉。
    ブログも、これといって、書くことがないのです。

 ここ数日は、現代詩を専門とするロンドンの老舗出版社、Arc社から注文を受けている新作詩を書き下ろしていた。

 打ち合わせ以外の外出といえば、もっぱら、家の周囲にひろがる田園の散策。

 その散歩も、台風でなかなかゆけなかったけれど。

 きょうは夕陽を浴びて、秋桜、コスモスが咲こうとしていた。

 「桜回廊」のアスファルトには、またすこうし秋に近づいた桜の葉が、吹き寄せられていて。自然の描く草文絵図を眺めていたら、なんとなく、古伊万里が恋しくなった。

 もうすこし涼しくなったら、夏の酒器を仕舞って、秋の酒器を見繕いたい。とはいえ、この夏も骨董屋を廻る時間がなくて、近年、これといった秋の酒器がだせないのだけれど。

 よって、以前、藤沢の古書店で買った料治熊太の骨董随筆『見直し文庫   日本の雑器五十章』を手繰りつつ、まさに無聊を慰めている。
   昭和五一年、一九七六年刊行の初版。たぶん、当時は革新的ですらあった、ボール紙箱装。

    庶民のイメージがつよい古伊万里だけれど、誤解で、「身辺雑器」とよぶには気がひける。でも、料治氏いわく、古伊万里が「土の中から生まれ、土の中で育った」、かつての日本人の自然観にとても近かったことは、氏の文章と収集品から共感できた。

    西脇順三郎の詩と古伊万里の魅力が、どこかでつながっているように感じるのは、ぼくだけだろうか。

    また、上写真にもどるけれど、この秋桜。ぼくにとって、白蓮汚泥に染ぜらるが如し、なのです。

2016年8月25日木曜日

フランスの美しい村


 執筆がいそがしく、打ち合わせのための外出はおろか、呑みにさえゆけない。

 仕事はともかく、十日ぐらい、どこにも呑みにいけてないのは、一年のうちそうないと思う。

 それもこれも、九月末から十月中旬にかけて渡仏するからで、いまのうちに原稿を片づけておかないと、あとで泣くのは自分。

 今回のフランスは、いままでのおまかせ旅行とちがい、行ってみたい場所がある。

 フランスで最も美しいといわれる百五十の村が加盟する「フランスの美しい村」。そのなかのミディ・ピレネー地方の一村、サン・シル・ラポピー。

 フランス文学にくわしい方なら、かのアンドレ・ブルトンが惚れこみ、晩年をすごした村だとわかるはず。大ブルトンに「ラポピー以外、他のどんな場所もいらない」といわしめた村だ。

 執筆の合間に、上写真、吉田和哉氏著、渾身の『「フランスの美しい村」全踏破の旅』を手繰りつつ、自分を慰めています。

嗚呼。

2016年8月22日月曜日

さきたまの休日





   ブログを書いているいままさに、すごい暴風雨!秋のタイフーンが咆哮している。

   台風九号が接近しつつあった、土曜日。なぜか、妻と埼玉県行田市にある「さきたま古墳群」にきていた。

    直木賞候補作家・和田竜氏の『のぼうの城』のモデルとなった忍城でも知られる行田だが、妻のお目当は「前玉(さきたま)神社」。なんと、古墳のうえに本殿と拝殿がある。『延喜式』にもその名が見られる古社だ。
    ちなみに、さきたま、は埼玉の語源になった地名。埼玉県名発祥の地だ。

    写真は、古墳群でも最大の「二子山古墳」。ひろびろとした青い稲穂のなかに古墳はあった。雨もよいだったから、ひと気もない。古墳の表は草におおわれており、風に吹かれて竪琴を鳴らす姿は、さみしさとともに太古の時間をしばし蘇らせる。こんなふうに、宅地化されず、水田のなかに古墳群が保存されているのが、とてもいい。

    水田のひろがる行田は、さいたまでも有数の名水が湧く。そして行田湯本の名のとうり、天然温泉も、湧いている。

   「茂美の湯」で汗を流す。透明でくさみのない、やわらかな清水の湯。

    湯あがりビールのあとは、もちろん、県北のうどん。埼玉県北は圧倒的に蕎麦よりうどんなのだ。茂美の湯ちかく、きのこ汁うどんが評判の「田舎っぺ」にゆくも、午後三時で閉店とのこと。無念。

    すこし足をのばして、北鴻巣駅ちかくの手打ちうどん屋「わらく」へ。

    亡くなった、母方の祖父に連れてきてもらった記憶がある。おもしろいのは、鴻巣、行田、東松山エリアでは、うどんのあてによく豚のもつ煮を食べるのだ。
    B級グルメで有名になった、東松山の辛子味噌をつけて食べる焼きトン。あれは、昔から高麗周辺に住む朝鮮の人たちの食文化らしいのだが、埼玉県北には朝鮮に影響を受けた郷土料理がおおい。

    というわけで、うどんのまえに、ビールを呑みなおす。

     もろきゅう、百八十円也。スーパーで買うきゅうりの二倍はおおきく、ふとい。十倍は瑞々しい。自家製の白菜漬けも、いい塩梅。
    そして、もつ煮。一杯二百八十円也。ぼくは、祖父がうどんともつ煮を食べていたことに、懐疑的だった。しかし!くさみもすくなく、あまやかでほどよく脂ののったもつ煮は、手打ちうどんによくあう。山形の銘酒、初孫を冷やで。

    県北の手打ちうどんは、つるつるで、噛み応えのあるつよいこしがあり、小麦粉がよく馨る。ぼくの母方の郷里、埼玉県北の吉見町では、うどんを「ぶつ」ことが花嫁修行だったそうな。たしかに、朝からうどんを食べるし、夕食のあとも、うどんは別腹だからと夜食に食べるほど。

    もつ煮がおいしかったから、〆にわらく名物、もつ煮汁うどんをたのむ。あったかい汁とつめたいうどん。うどん汁には、もつ煮一杯分くらいのもつがはいっている。ほどよくこってりしていて、うどんつゆ、葱との相性が、いい。くせになる味。

    歴史ロマン、自然散策、温泉、うまいうどん、ともつ煮。ディープなさきたまの休日。また、やろう。

2016年8月19日金曜日

晩夏のスコッチ


 アードモア。 
 
 スペイサイドの境にある、ボギー川沿いにある蒸留所で、 ライト・ピート、単式蒸留機でのみつくるシングルモルトで知られるスコッチ。

 フィルタで濾過する際、冷却による低温殺菌をしない、昔ながらの蒸留法でも、マニアに愛されている。

 このアードモアはオフィシャルボトル。近年、ぐっとボトル数が減ってしまったスコッチを、浦和のバー「リンハウス」さんで見つけた。

 マスターの鈴木氏はハイランドやスペイサイドのスコッチがお好みのようで、アードモアはもちろん、その地域の蒸留所も実際に訪ねておられて、くわしい。
 ちなみに、鈴木さんは今月の「danchyu」で取材を受けられていた。

 最近はピートのきいた海のスコッチより、いわゆる川のスコッチ、スペイサイド川流域のシングルモルトに魅かれる。水が、とても、やわらかいのだ。

 アードモアは、ハイボールにしてもらった。前回、あんなふうに書いたけれども、ぼくはふだんハイボールを呑まない。最初の一杯目がハイボールだと、ウィスキーの華やかなキックがつよすぎて、どうもあまり好きくない。
 でも、スペイサイド・モルトのハイボールはべつ。ライト・ピートのハイボールは口あたりがじつにかろやか。キックもそよ風のように、さわやかで、自然だ。

 アードモアは比較的に安価なので、家呑みにもおすすめです。

 宵の風にほんのり冷たさがまじり、虫の声がきこえだす。晩夏の夜をはじめるのに、いいハイボールだと思う。

 隣のスツールに美女がすわっていると、なお、うれしいのだけれど。

2016年8月17日水曜日

秋の扉が


 台風一過の朝。

 すこしだけ陽の光が秋らしくなって、すずしげな風も吹き、田畑のそちこちに秋の虫の声がかすかに鳴りわたる。

 見沼の「桜回廊」の道には、タイフーンがうっすら色づいた落葉を散らせて、西脇さんのいう「秋の象徴」をかたどっていた。

 お盆といえど、休みはなく、今朝も注文していただいた詩の原稿、雑文、そして大学のレポートの採点などに追われた。〆切をすぎているものもあり、ブログを書いている場合ですか、とつっこまれそうですが、どうかしばしお待ちを。

 執筆につかれると、レポートを読む。

 大学院生が書いた、原稿用紙十枚分のレポートを拝読して頭脳と精神を引き締め、各レポートに原稿用紙一枚の評を書く。フェリス女学院大学生の書いたレポートを読んで、こころを洗われる。
 学生さんのレポートは、それぞれよく書けていて、ほんとうに甲乙つけがたく、困った。一篇の詩と出会う、こころの強さ、きよらかさ、ときに若い烈しさが、どの鑑賞からもつたわってくる。

 自分自身の詩を、思わず見つめなおそうというものだ。

 大学はもちろん、秋からは、フランス行きや「LUNCH POEMS@DOKKYO」、「見えない波」第二波 など、さまざまなプロジェクトがひかえている。あゝ。

 ペンとも無為ともつかぬものを終日にぎっていたら、今日も、もう夕方。書斎の外の気温は三十二度。ほんらいは秋の鳥、ヒヨドリが窓辺の辛夷の枝にとまっているが、猛暑ゆえ、嘴をひらきっぱなしにしている。

 あらたな季節の扉が、もうすぐ、ひらく。さっさと家に帰って、秋の到来を祝福しつつ、つめたいハイボールでも呑んじまおう。

2016年8月8日月曜日

ブログのお盆休み



 今朝は風がすずしい。その風で、穂波がたつ。 

 見沼の稲穂もだんだんふくらんできて、もう空気に秋の馨がただよいはじめた。

 さいたまではいよいよお盆もちかずいてきたので、ブログは八月十六日までお休みとさせていただきます。

 秋といえば、九月末から十月の初旬までフランスへ。旅と、詩の仕事と。ブログでも書くことでしょう。

 よって、いま前期のレポートを拝読しているフェリス女学院大学の後期授業は、第一回、第二回の講義が休講になります。すみませんが、よろしくお願いいたします。

 ブログも再開後は、ぜひおつきあいください。

 みなさん、よいお盆をおすごしください。

2016年8月5日金曜日

古川日出男さんの「ダンダンダン。タンタンタン。」



小説家の古川日出男さんから、ぼくと妻あてにお手紙をいただく。

なかにはDMが封入されていて、東京のギャラリーで画家の近藤恵介さんと二人展をされるらしい。

タイトルは、「ダンダンダン。タンタンタン。」

詳細は、こちら。


公開制作もされる、という。

下写真は小説家の直筆メモ。

古川さん、あいかわらず、走っているなあ。

そんな音がきこえてきそうな、展示タイトル。

古川さん、ぼくも妻も、元気です。


みなさんも、ぜひ、ギャラリーへ。そして、よい週末を。

2016年8月3日水曜日

「雪わりのバラライカ」



   「現代詩手帖」8月号座談会での発言にもあった、拙詩集『耳の笹舟』の一篇、「雪わりのバラライカ」。

    もともとこの詩は、一昨年、下北沢の書店「B&B」で開催された詩人管啓次郎さんの散文集『ストレンジオグラフィ』(左右社)刊行記念イベントのために書き下ろされた詩篇だった。
 
    先日、ときおりうかがう浦和の名オーセンティック・バー、「リンハウス」さんのカウンターに座ると、マスターの鈴木さんが拙詩集をもってこられた。ふだん自分から詩人だと名乗ったりはしないので、マスターの不意打ちにはおどろいた。

    そして、マスターが上写真のオリジナル・カクテル「雪わりのバラライカ」をつくってくださった。

    バラライカ。バーにゆくと、かならず一杯は呑んでしまう。名カクテル、サイドカーのレシピをウォッカに変え、ロシアをイメージしたカクテルだが、その由来についてはつまびらかにしない。雪のふらないアメリカ南部生まれの小説家、トルーマン・カポーティがドライマティーニとともに好んだカクテルとして、記憶しているだけだ。

    マスターいわく、このオリジナルカクテルは、レモンピールではなくグレープピールで馨をつけてある。
    ひとくち呑むと、さわやかでふわりとしたグレープの馨のしたに、きりりと冷えた柑橘の味と霙のような舌ざわりを感じる。なるほど、馨という粉雪のしたに、冴え冴えと、バラライカ本来の五感の雪層が存在するかのよう。

    とはいえ、このオリジナル・バラライカ。とても好みではあるけれど、自分からはなかなか注文しづらい 笑

    しらふのときは畏れおおいので、たっぷり、アルコールの助走をしてから、小声でオーダーしています。

2016年8月1日月曜日

REBORN ARTFESTIVAL2017


    東北は石巻、牡鹿半島に四十組みの各国を代表するアーティストたちが作品を展示する、いま注目の新アートフェス「REBORN ARTFESTIVAL2017」。

    今回、ぼくは、参加アーティストのひとり、ギャレス・ムーア氏のインスタレーション作品に使用された、書き下ろし「詩的テクスト」の日本語訳をさせていただいた。

    ギャレスさんは、ぼくとほぼ同年代。カナダのマッツクイの生まれという。下記、フェスおよびギャレスさんのプロフィールをリンクしておきます。

REBORN ARTFESTIVAL2017


ギャレス・ムーア氏プロフィール


    ギャレスさんの作風は、トーテムや「魔術師」的なアート、だという。翻訳した作品にも、たしかに東北の動物たちが「出演」していた。哀しい哉、ぼくはスケジュールがあわず、観にゆくことはできないのだが。

    ギャレスさん、さいたまよりご健闘をお祈りします。上写真は、見沼の鴨が仔鴨の隊列を率いて水泳しているところです。
   ささやかですが、この奇跡めいた出逢いを、エールにかえさせていただきます。

    おちかくの方は、ぼくのかわりに、ぜひこの芸術祭へ足をお運びください。