2015年12月28日月曜日

囲む会のプレゼント





    昨日、今年さいごのイベントが、青山のステーショナリー「書斎館」で開催されました。おこしいただいたみなさま、ありがとうございました!

   会は、いわゆるプライベート・リーディング。朗読と、珈琲を飲みながらのゆったりとした茶話会。
   『耳の笹舟』の出版祝いで、内内で囲む会をひらきたいという申し出をいただいたのが、先月。限定二十名のちいさな催しになった。

    会のおわりに、「この万年筆で、『Asian Dream』を書いてください」と、連名でペンをプレゼントしていただいた。でも、ペンにしては大きな箱で、ずっしりと重い。自宅に帰って、包装をほどくと、びっくり。上の写真、「福」の文字がはいった豪華な木箱。しかけ細工が施してあり、パズルめいた蓋をあけると、なかからインク壺とペンがでてきた。

    ペンは、パーカー・デュオフォールドの限定モデル「福   チャイナレッド・リミテッドエディション」。透明感のある深紅のエボナイトボディ。キャップトップには祥雲と、さかさに「福」という漢字ロゴが篆刻されている。24金のペン先には、やはり「福」と、限定1399本中の「1116」とシリアルナンバーが打ってある。

    原稿は手書きで、PCさえもっていない、ぼく。『耳の笹舟』の原稿は全篇、H氏賞の受賞祝いに親戚からいただいたファーバーカステルの銀軸の万年筆で書いた。   
    パーカーの書き味は、ドイツ産のファーバーにくらべると、やや大味。とはいえ、すばらしく書きやすい。毛筆のごとく、書き味はかるくなめらか。右手指先にフィットして、重さ、バランスもいい。生産国はイギリス。
    附属のインクは、パーカー「ペンマン」のブラック。もう生産されていないインクで、オフィシャルのブラックより、濃厚な墨色をしている。

    なんだか、えらいペンをいただいてしまった。プレゼントをしてくださった、代表の下田さん、サワコさん、クッシーさん、古川さん、瀧澤さん、ほんとうに、光栄です。そして、囲む会をひらいてくださったみなさま、こころよりお礼を申し上げます。

    会のあとは、南青山のフレンチ「フィガロ」に連れていっていただく。緊張もしたが、たのしく、美味しく食事とワインをいただき、話もはずんだ。 
   この幸福な夕べを胸にきざみ、また明日からがんばってゆきたい。

2015年12月24日木曜日

Menu de Noel 2015





   クリスマスの夜。銀座で打ち合わせをおえると、桜木町へ。

   アベックたちをさけて、いつものグランドホテルのバーへゆく。誤算。人気のないはずのバーは、三十分ほどまたないと、はいれない。
   それでも、錆色に枯れてゆく海をながめながら、トニック、マティーニ、それから写真のオールドパー・スーペリア。

    仕事帰りの妻とまちあわせて、茅ヶ崎の隠れフレンチ・ジャポネーズ、「ル・タロー」で食事。
    シェフのタローさんがカウンターの目のまえで腕をふるう。テーブル席はない。コースのみで、毎晩、八組だけサーブする。

   フランス産キャビアとコンソメクリームロワイヤルからはじまり、スコットランド産サーモンと冬瓜のテリーヌ、写真のトリュフソースのかかったあたたかいフォアグラのプディング、オマール海老と帆立貝のパイじたてアメリケヌソース、など九皿。

   タローさんは、南フランスの都市、ナントから内陸にはいったロワール川近郊の村々のホテルやレストランで修行されたのだとか。ジビエはもちろん、ロワール地方料理にもくわしい。異色の経歴をもつシェフだと思う。
    そういえば、最近の腕ききのシェフたちは、大都市の星つきレストランやホテルだけで修行することを善しとしない。
    ペリゴール地方出身でミッテラン大統領の料理人をつとめた女性シェフ、ダニエル・デルブシュがそうだけれど、地方の伝統的なフランス料理に回帰するようなところもある。

    タローさんにロワール地方の代表的な料理は?ときくと、「カワマス料理ですね」という答えだった。一メートルぐらいある川魚で、日本で食用のものはほとんどきかないという。空輸をすると、一尾4〜5万円だとか。

    シェフ、居合わせたお客さんどうしもたのしく会話がはずむ。コースがいっせいに終了したのは、22時ちかく。みなさん、シェフに招かれた、ノエルの食事につどう親戚家族のような雰囲気だった。こんなレストランが、茅ヶ崎にあるなんて。

    そして、毎年のようにISによるテロの危機にさらされている、友人もおおいパリで、今年のノエルはみんなどうすごしているのだろう。和気藹々とした雰囲気のなかで、フランスの平和を祈らずにはいられない。

    Merry Xmas!!

2015年12月23日水曜日

温泉と「塩そば」



    二週間ぶりの休日は、詩人の温泉コースにすることにした。

   写真は春日部の「麺や   豊」さんの新メニュー、「塩そば」。

    スープは名古屋コーチンの丸鶏と赤鶏の生トリガラをメインに、香菜をくわえ、乾物、淡路島の藻塩、ポルチーニ茸オイルで仕上げたのだとか。

    たれをつかわないハーブと胡椒と塩でつけた焼豚も、すばらしい。麺は、川越の地粉をつかった自家製麺。

    この日、ぼくは、ビール二本と皿焼豚。そして、裏メニュー、新潟の日本酒を熱燗で二本。〆に、この塩そば。

    豊さんは、基本、日本酒や紹興酒はださない。ラーメン一徹で、酒を呑む店ではないのだ。でも、この冬、ぼくのために特別に用意してくださった。

    天然温泉にはいった後、大落古利根川べりで、ぼくがひとり(埼玉ではレッドリストいりの)オシドリの高鳴きをききながらニッカウヰスキーの小瓶をかたむけていたところを見つかったらしい。「麺や    豊」は、俳人・加藤楸邨邸跡地の裏手にある。

2015年12月18日金曜日

「見えない波」第2期発足会


   去る12月8日、中野の「中華sai」で、「見えない波」第2期の発足会がひらかれた。

    2014年に、小説家の古川日出男さんのよびかけでスタートした「見えない波」プロジェクト。来年2016年から、左右社さんのホームページで一年間の連載として、再スタートします。

    新メンバーは写真上、左から本ブログではもうおなじみ、気鋭の若手詩人、暁方ミセイさん。詩人にして比較文学者の管啓次郎さん。と、ぼく。
    三詩人をコアメンバーに、さまざまなジャンルのゲストを招いてリブートする予定です。

    写真右は、左右社エディターの東辻さん。左右社から書籍化も予定されている『地形と気象』でも担当してくださった。

    東日本大震災から5年が経とうとし、「見えない波」第1期からも、もう一年が経つ。今年は新詩集『耳の笹舟』の刊行もあって、「見えない波」になかなかたどりつけなかった。
   『耳の笹舟』は「見えない波」から生まれた、といっても過言じゃない。でも、応援してくださったみなさんに、お待たせして申し訳ないと思い、ずっとこのことが気がかりだった。
    協賛してくださる出版社も見つかり、あらたな態勢とベストメンバーで再スタートできることになったことは、ぼくにとって望外のよろこびです。

    これからも、応援をよろしくお願いいたします。

    そして、来年からスタートする、新「見えない波」を、どうぞお楽しみに!

2015年12月16日水曜日

ローライ同盟発足会、その2




    ローライ同盟発足会のつづき。

    写真上は左から、詩人のカニエ・ナハさん、アメリカ現代詩研究の遠藤朋之さん、詩人の菊井崇史さん、吉増剛造さん、デザイナーの井原靖章さん、石田瑞穂、詩人の城戸朱理さん、映画監督の井上春生さん。の、ローライ同盟メンバー。

    中央写真は、小野田さん、吉増さんのローライフレックスと、井上監督のベビーローライ。

    下の写真は、バー「クルベルキャン」の二次会にて。左から遠藤さん、石田、そして飛び入りしてくださった、ご存知、写真家・今道子先生。写真はいずれも、小野田桂子さん。やっぱり、いい写真だなあ。

    今回のローライ同盟発足会での収穫は、小野田さんの上写真。惜しくもクローズが予定されている神奈川県立近代美術館鎌倉館の最終展示、その玄関前での記念撮影でした。当日、小野田さんのローライは不調。吉増さんがご自分のローライで撮影したのだが、カチッというシャッター音がすると、みなさん「おおっー!」と歓声があがったのだった。ひとつの終わりから、またなにかがはじまった瞬間だった。

   発案者の吉増剛造さんが、かんたんなスピーチをしてくださった。吉増さんによれば、「ローライ同盟はライカ同盟の継承であり、ライバルでもある」とのこと。ライカ同盟は赤瀬川原平、高梨豊、秋山祐徳太子により結成されたのだが、吉増さんが若かりしころからの盟友的な現代美術作家でもある。吉増さんの亡くなられた親友、詩人の岡田隆彦とのつながりもあるらしい。この同盟は、吉増さんの特別な想いがこめられているのだ。さらに、小野田桂子さんakaマッドバンビのファンのつどいでもあるとか 笑

    そんなわけで、会長は城戸朱理さん、キャプテンは小野田桂子さんなのだった。

    スピーチと記念撮影が終わると、ぼくらは最終展示を観て、若宮大路をそぞろ歩く。すでに暗く、撮影は、またこんど。吉増さんとぼくは八幡さんに祀られている藤原定家の話をしていた。「じゃあ、うたがうまくなるように、石田とお参りにくるか」と、吉増さん。

   南仏ふうブラッスリー「Orange」で打ち上げ。井上監督、井原D、菊井さんとジム・ジャームッシュの映画話。井原さん、菊井さんとはほぼ初対面なので、いろいろとお話をきく。すると、ゲストに、文芸批評家にして鎌倉文学館館長の富岡幸一郎さん、そして今道子さんが合流。富岡さん、吉増さん、カニエ・ナハさんは川端康成と三島由紀夫の話でもりあがっていた。今年のエルスール新人賞現代詩部門を受賞された、カニエさん。吉増さんは、ずいぶん褒められていたっけ。

    二次会は、富岡さん、今さん、城戸さん、小野田さん、遠藤さん、ぼくで名バー「クルベルキャン」へ。城戸さんがボトルキープされている25年もののシングルモルトをご馳走してくださる。じつにやわらかな、ピートの香り。口にふくむと、海に浮かんでいる気がした。鎌倉在住の今さんともうすこしお話したかったが、とてもシャイでつつましやかな方だ。世界的に高名な写真家なのだけれど、ご自身のことをほとんど語らない。芸術家は、こうでなくては、と思う。こんどは、もっとお話ししたいな。

    バーは、富岡さんと城戸さんがおごってくださる。今さんにお見送りいただきながら、遠藤さんとぼくはビールと塩ゆでピーナッツを買って湘南新宿ラインのグリーン車に乗りこむ。新宿に着くまで、えんえん詩の話をしていた。

    大満足の、鎌倉の一日。

2015年12月14日月曜日

早稲田大学文学部イベントに出演


   12月12日土曜日、早稲田大学文学部で装幀家の奥定泰之さん(写真右)と思潮社編集部の出本さん(写真左)とともに、イベントに出演。多くの学生さんが参加してくださった。ありがとうございました。

   最初は、エディターの出本さんが『耳の笹舟』(思潮社)から選んでくださった「耳鳴り」を、ハンドアウトをもとに朗読。つづいて装幀と編集、そして詩の執筆など、一冊の詩集の生成をめぐって三人でトークした。

    下記は、奥定さんが許可くださった、『耳の笹舟』秘伝レシピ。ブックデザイナー志望の方は刮目あれ!

[資材]
カバー:モス・130ライトグレー
オビ:リ・シマメ・スノーホワイト
表紙:彩雲・あじさい
見返し:彩雲・あじさい
本文:OKミルクリーム・ロゼ

[本文フォント]
漢字:ヒラギノ明朝 W3
かな:游築36ポ仮名 W2

    奥定さんの装幀は、詩中の言葉にインスパイアされてはじまるという。
   もちろん「音ずれ」もあったのだが、「透き間」という言葉にも反応されたそうだ。
   『耳の笹舟』は、上記のようにモスの表紙カバーのしたにちらりと見える、本体表紙にマーブル調のスカイブルーの紙があしらわれていて、とくに目をひく詩集だ。奥定さんは『耳の笹舟』は本質的に中間言語の領域、つまり「透き間」の言葉と考えたのだとか。この把握が、装幀のモティーフにつながったという。また、本文用紙も極薄の赤味がついており、活字の特色黒を微妙に変化させる。ぼくの目だと、自然光のしたでかすかに藍へとかたむくのだ。
    それと、ぼくはよく見返しにサインをするのだが、これも奥定さん、よく観察されている。青空色の和紙にちかい特殊紙に万年筆でサインすると、じつに、映える。ぼくには、なんだかもったいない。
    奥定さんの装幀は斬新でありながら、同時に深さを感受させる。詩集を読みすすめながら、ひとひとつ、装幀の妙に気づかされるしかけやたくらみにみちていると思う。その意味で、詩的書物は装幀自体も、喩と多義性へひらかれることになる。

   エディターの出本さんもいっしょに、装幀の色校やゲラの一部をもちいながら、本の生成の現場を語られていた。おふたりの興奮が伝わってくる。

    今年の初夏に出本さんにお渡しした『耳の笹舟』の原稿用紙は、二百枚にのぼった。完全な紙幅オーバーで、高木総編集長と出本さんによって半分以下に選別された。さらに総ページ数130頁内におさまるように、詩行をシェイプアップしてきたのだった。
   海外翻訳はあっても日本語での掲載がない詩も数篇でてきてしまい、ぼくではわからない客観的で的確なアドバイスをくださったのが、高木さん、出本さんだった。
   それでも『耳の笹舟』は通常の詩集の1.5倍の行数。今回の詩集はぼくにとっても、エディターと詩人が二人三脚で編んだ、という感想がある。

   そんなトークが一時間半におよんだ。学生のみなさんも、とても真剣にきいてくださった。

    終了後は、神楽坂で打ち上げ。奥定さんがご馳走してくださる。アイリッシュパブで、ハギスを食べ、英国風に仕上げた泡のない地ビールを飲む。蕎麦屋でマッサンのブレイクでさらに手にはいりにくくなった広島の銘酒「竹鶴 」をぬる燗で呑む。
    ぼくらは、かなり呑んだ。夜の街に消えてゆく出本さんを送ったあと、奥定さんを誘って、飯田橋「西安」に名人芸の刀削麺を食べに。奥定さんはちゃんと?いちばん辛い麻辣麺を食された。
   多忙なおふたりが、土曜日にめいっぱいつきあってくださった。おおいに呑み、話した。そのことが、とてもうれしい。
    こんどは、浦和にもきてくださいと、再会を約束したのだった。

2015年12月11日金曜日

12/12は早稲田大学文学部イベント


    いきなりのアナウンスですが、明日、12月12日土曜日、装幀家の奥定泰之さんの授業の一環により早稲田大学文学部でイベントを開催します。

    出演は、装幀家の奥定泰之さん、思潮社編集部の出本さん、そして石田瑞穂です。

    奥定泰之さんは前詩集『まどろみの島』にひきつづき、新刊詩集『耳の笹舟』(ともに思潮社)の装幀をしてくださった。自分の詩集ではあるけれど、すばらしい仕事をしてくださったと思う。
    奥定さんが『耳の笹舟』装幀秘話を語り、ぼく、そして担当編集者のおひとり、出本氏が詩集の制作秘話を語るというイベント。
     紙の本と、詩の言葉、そしてエディターの仕事と想いがどうクロスしてゆくか。一冊の詩集の生成をめぐる、なかなか聞けないトークと朗読になればと思います。
    詩集の販売はありませんが、お持ちいただいた方にはサインもいたします。

   場所

   早稲田大学文学部    戸山キャンパス
    38AV教室

    時間

    13:00〜14:30

    早稲田大学生のみ入場可のクローズド・イベントですが、ぜひお越しください。

2015年12月10日木曜日

ローライ同盟発足会、その1




    去る12月6日日曜日、鎌倉は県立近代美術館まえで「ローライ同盟」発足会がおこなわれた。
   メンバーは、いちばん下の写真、左から、遠藤朋之さん、菊井崇史さん、吉増剛造さん、城戸朱理さん、井原靖章さん、カニエ・ナハさん、小野田桂子さん、そして井上春生さん。詩人から写真家、デザイナー、映画監督まで、世代もジャンルも多彩なクリエイターが集結したのだった。

   そもそも「ローライ同盟」とは。

    詩人の城戸朱理さんのブログを読んでくださいと、手抜きをしようと思ったのだが、あれ?書かれていない?笑

    ですから、以下、経緯をご報告します。

   ハンドメイド・ウォッチやライカでも有名な精密機械職人の街、ドイツはハンブルグで1920年代からつくられている二眼レフ・カメラ、ローライフレックスをみんなで購入して撮影しようという会なのだ。二番目の写真で吉増剛造さんが首からさげているのが、ローライ。一番目の写真は写真家の小野田桂子さんで、ローライに専用フィルムをいれているところ。

    きっかけは、若いころからローライに憧れていたという吉増剛造さんと写真家の小野田桂子さんakaマッドバンビが、スカパー放映の番組「Ash」のため京都での撮影中、ローライの話で盛り上がり、吉増さんが会発足をうながした、とのこと。今年の春、鎌倉に遊びにいったときに城戸さんと小野田さんから、ぼくもおさそいいただいたのだった。

    ぼくのイメージだと、ローライは百万円ちかいカメラで、メンバーですこしずつお金をだしあって一台を購入し、使いまわすのだと思っていた。

   ローライフレックスは、じつは新刊詩集『耳の笹舟』にもその名がでてくる。いまプロジェクトをともにさせていただいている写真家、赤阪友昭さんがメインで使用しているのも、ローライなのだ。プリント画像はサイズをおおきくしてもデジタルより透明感があり、海のようなレンズの深度を感じさせる。友さんにはローライでポートレートも撮っていただいたし、作品も購入して、日々、ながめている。

   青山二郎、小林秀雄、白洲正子らが資金をだしあって骨董を買ったという麦藁倶楽部みたいで、いいじゃない、とそのときは思ったのだった。

    つづく

2015年12月6日日曜日

古唐津陶片


   めずらしく、絵唐津の陶片を手にいれた。「B&B」イベントの翌朝。青山を歩いていたら骨董市がたっていて、ギャラがこれに化けたのである。

    南唐津の焼山窯出土で、室町後期から江戸初期にかけてのものらしい。絵付け職人が筆でさっさっと素早くえがいた気どらない独特な草絵紋を、青山二郎は「ポンチ絵のような」とけいようしていたっけ。秋の白んだ光に、なかば透けるようなはかなさでそよいでいる名もない草、そんな風情にひかれたのだった。

   それでもサイズは小皿をはみだすおおきさで、菓子皿くらいにはなる。たぶん、大江皿の基底部で、裏底にかなめがついたままだ。焼成のときにくっついたか、ゆがんだかして、皿本体は失敗作として割られたのだろう。

   炙った紋甲烏賊、西京焼きの半みくらいはのるかもしれない。陶片側面に「焼山下」と細ペンで書き込みがある。調査資料がまとめて放出されたのではないか。

    絵唐津陶片の魅力は、まさに破片であり、部分であるということ。陶片とはいえ絵はちょっとした小品のようだし、古唐津の釉調も見ていて楽しい。でも、ああ、こんな草絵のある桃山あたりの三合くらいはいる片口があったらな、とか、たたらの陶板があったら最高だなとか、高価でけして手にはいらない全体性、完品への妄想をためつすがめつふくらませるのである。

    古玩というけど、 酒を呑み、陶片をめであそぶ姿は、われながら病んでいるとしかいいようがない。

2015年12月3日木曜日

横浜からの浦和、南仏ピノ・ノアール




    昨日は仕事で終電をすぎてしまい、横浜に投宿。

   ボストンバックを片手に浦和に帰り着いたのは、夕方。田島幸子さんプロデュース、国際交流基金での古川日出男さん、柴田元幸さん、ハンナ・レアードさんのイベントにいけなかった。管啓次郎さんもいらしたという。
   「見えない波」初代メンバーが集える日をみすみす逃した腹いせ?に、「田楽」に呑みにゆく。

    写真はテラス・ド・ギレム、 2014 年のピノ・ノアール。きれいな酸味が、絶品白レバーの脂を、すっきり切りあげる。自家製のお新香をピクルスがわりに。

     さいごは、マスターの上甲さんに、最近呑みすぎだから、あがりと軍鶏のプリンを、と頼んだら、またまた、とマールがでてくる。田楽の軍鶏のプリンは、市販のプリンよりちょい白い。ほぼ牛乳と軍鶏の朝どれ卵でつくられているのだ。よって、酒のあとでもふわりと淡白で、食せる。

    ここ十日、まともに家で食べていない。恐るべし、師走。

2015年12月1日火曜日

日々是好日?




    早大での授業のあと、神田川ぞい、関口芭蕉庵ちかくの椿山荘内カフェで、『群像』編集子と打ち合わせ。

   それから、京都に帰るという岡本啓さんと夕飯でもと思っていたら、メールがまわりまわって、江戸川橋の居酒屋「でんがな」で、佐峰存さん、思潮社の高木総編集長、遠藤さん、出本さんも参加して、下北沢メンバーがそろってしまった。詩集の上梓とイベントの成功を祝って、乾杯。

    岡本啓さんとは、本ブログと連動して、来年、新プロジェクトをスタートする予定です。佐峰さんもゲストできていただこうと思ってます。

    居酒屋のまえに、ぼくは出本さんが教えてくれた、ちかくのワイン・バー「葵」にいた。出本さんは、粋なエディターなのだ。ワインはフレデリック・コサールのシラー、2014年。ヨーグルト香から、シラーにしては豊潤なフルーティ・フレーバー、余韻はムッシュ・コサールの得意技といえる葡萄種のここちよい苦味。

    遊化自在、遊ぶように働きなさいと、釈尊はいったっけ。

    午前中は早朝からブルックス・ブラザーズのカタログの仕事だった。撮影時、ブルックスらしい、ブラックにかぎりなくちかいダークブルーの、いい春秋冬用のコートがあったので、現品割引で手に入れた。今年は暖冬らしいので、まだウールのコートは重い。着たまま早稲田へ。タクシーに乗りこむところを、カメラマンさんに写真を撮られてしまった。

2015年11月30日月曜日

「言葉の旅、詩の岸辺へ」イベント無事閉幕!



    去る11月27日、下北沢「B&B」で開催された、詩人の佐峰存さん×石田瑞穂×岡本啓さん(うえ写真左順)のイベント「言葉の旅、詩の岸辺へ」は、多くのお客様にご来場いただき、盛況のうちに閉幕。

    ご来場のみなさま、ほんとうにありがとうございました!

    この会の模様は、誌面収録の予定があり、詳しくは語りませんが、いま注目の新鋭、佐峰さんと京都から駆けつけてくださった岡本さんのフレッシュかつエネルギッシュなトークと朗読のおかげで、とてもいい詩の一夜になったと思います。すばらしいおふたりに、感謝を。

    サイン会も盛り上がりました。今回、「見えない波」チームが、ちょうど福島でのイベントで、残念ながら欠席。詩人では、佐峰さんの『対岸へと』の栞文を書かれた野村喜和夫さん、北爪満喜さん、渡辺めぐみさん、岡野絵里子さん、山田亮太さんらがおこしくださった。

    うえの写真は、かけつけてくださった写真家の小野田桂子さんが撮ってくださったもの。「YMOのジャケなかんじで!」とディレクションをくださり、よく見ると三人の視線が各々べつの方角を見つめています。小野田さんは、片瀬江の島高清のたたみいわしをプレゼントにくださる。パンクかつアバンギャルドな精神をもつカメラウーマンなのだ。

    このあとは交流会。「B&B」のみなさんにお礼を述べ、下北沢の呑み屋に消えることになる。12時ちかくに、解散。ぼくは渋谷のスコッチバーに立ち寄り、午前一時。翌日もイベントがあったぼくは宿泊先の青山のホテルにもどる道すがらさらなるバーをさがすが、なんと、あいている店が、ない。

    コンビニもなく、閑散とした246を煙草を喫いながら歩いていると、外苑方面から、ひとりの女性が歩いてくる。紅いワンピースのうえに皮のライダースジャケット。右手には重そうに、ワインボトル。左肩からはカメラをさげていた。

   女性が、「すみません、ライターを、かしてもらえますか?」。ぼくは、ゴロワーズのパックとともにさしだし、いいけど、そのワインをくださいとたのんでみる。女性は、「いいけど、ぜんぶはだめです」と答える。

    晩秋の肌寒い一夜。見ず知らずのぼくらは青山の路上で、数分間、煙草の火と、ワインを、交換した。ワインはすこし、香水のかおりがした。

2015年11月26日木曜日

明日は「B&B」イベント!



   なのに、菊の写真から。

   母が好物の菊のてんぷらを揚げてくれた。庭に咲いていた、菊です。

    衣をさくっとかじればふわっとひろがる、花の香り。花芯のそばの、ほのかな苦み。ビールにも、日本酒にもあう。秋の終わりを告げる味覚。

    昨日は三日酔いだった。月曜日が田楽でボジョレーヌーボー祭。火曜日に思潮社編集部の高木総編集長、出本さん、装幀家の奥定泰之さんが、江戸川橋の鰻や「はし本」で、『耳の笹舟』上梓のお祝いをしてくださった。
    そのあとバーで話しこんでいたら、なぜかこのメンバーで近々、イベントをやることに(笑)。早稲田大学にて詩と装幀、本づくりをめぐるイベントをやる予定です。

    家族や仕事上の友人に景気づけをしていただいたところで、明日はいよいよ、下北沢のブックストア「B&B」でのイベント。これだけ書いたので(苦笑)、ぜひ、おこしください!

    詳細は、こちら。


明日は、晴れそうです。下北沢で、お会いしましょう!

2015年11月24日火曜日

早稲田大学で講義



    今年も、今日から早稲田大学創造理工学部での詩の授業がはじまる。

    学生のみなさん、よろしくお願いします。

    去年から教えはじめたのだけれど、庭の大銀杏が、ちょうど金色に色づく時季なのだ。今年は暖冬のせいか、葉にうすく緑がのこり、黄金に染まりきらないまま、冬を思わせる風に散ってしまう。

    ぼくはPCを持たないので、ハンドアウトの原稿も手書き。

    それと、しつこいようですが、11月27日の下北沢「B&B」イベントも、よろしくお願いいたします!

    詳細は、こちら。

2015年11月21日土曜日

11/27は「言葉の旅、詩の岸辺へ」イベント!


   来週金曜日、11月27日。

   以前もお伝えしましたが、下北沢のビールも呑めるすてきなブックストア「B&B」で、佐峰存さんの第一詩集『対岸へと』とぼくの第三詩集『耳の笹舟』の刊行記念イベントが、刊行元の思潮社主催で開催されます。

    そして、ゲストはいま注目の若手詩人、岡本啓さん。京都から、駆けつけてくださるのです。

    時間は20時スタートと、ややおそめですが、夕食後のひととき、ドリンクを片手に、ともに詩のテーブルを囲みましょう。

    イベントの詳細は、こちら。詩集購入の方に、三人の詩人がサインもいたします!


   ぜひ、お越しください!

2015年11月18日水曜日

鹿児島のあぢもり





    鹿児島のグルメといえば、千日町の名店「あぢもり」の黒豚しゃぶしゃぶ。通称「黒しゃぶ」の味は、詩人の城戸朱理さんや野村喜和夫さん、小説家の柳美里さんや藤沢周さんらから、「いやあ、瑞穂くん、鹿児島といえば、あぢもりだよ」と、百回はきいていた。

    三十代前半で、その話をきいてから、ぼくは鹿児島にゆく機会があっても、あえてあぢもりには立ち寄らなかった。今回、やっと、高岡修さん、山下久代さん、城戸朱理さん、マッドバンビさんとくることができた。残念ながら、和合亮一さんは福島に帰らなければならず、ご一緒できなかった。

   まずは黒豚のバラ肉だけ、特製スープに「花が咲くように」ときいれる。ほとんど、アクがでなかった。最初は肉とスープだけ味わう。肉は花びらのようにやわらかく、じゅわーっと脂が口のなかにひろがる。舌がとろけるような余韻がのこっているうちに、焼酎。

    つぎに、鶏卵をスープに溶き、肉とからめて味わう。写真でみると、スープがすごくきれいでしょう。そして、お肉がつやつや、ぴかぴか、光っているでしょう。以前、東京の和食屋を取材したときに、その店では豚肉に微量の片栗粉をふっていた。和食では基本的な技術。おかしなことじゃない。それで豚肉につやをだすのだが、あぢもりの本物の黒豚は、そんな必要はないのだろう。

    着物姿の山下さんがもつのは、あぢもりのオリジナル焼酎。ほんとうは、店からもちだしてはいけないのだが、今回、お店のご好意で、焼酎がはいったままのボトルを、光栄にもぼくがいただいた。表が西郷さん、裏が大久保さん。その日の記念に、みなさんにマジックで寄せ書きをしてもらおうと思っていたのだけれど、黒しゃぶがあまりに絶品、酒もうまかったので、忘れちゃった。

    さらに黒豚のロース、バラ肉のとんかつ。あぢもりでは「本物の薩摩黒豚」だけをつかっているので肉にかぎりがあるとか。黒豚がなくなれば、営業はおわり。すべて、高岡修さんが、ごちそうしてくださった。

    十一時半ごろ入店してから、午後二時まで、呑み、食い、文学の話。大好きな詩人たち、山下さん、バンビさんとの、鹿児島での饗宴。十年ごしの夢がかなった気分だった。
   ほんとうに、ゆたかな時間だった。

2015年11月16日月曜日

for Paris


    パリ東部10区のバタクラン劇場界隈、郊外の国立競技場でISの犯行と見られる連続襲撃テロがおこった。犠牲者は120名を超え、昨日、オランド大統領は報復のためシリアを空爆。暴力が暴力を呼ぶ連鎖は、だれも否定できない。

    事件があったのは、レピュブリック広場ちかくの、レストランもたちならぶ静かな界隈。ぼくも、今年の三月に行ったばかり。夏には、ボルドーから、パリ育ちの友人が来日したのだった。まさか、こんなことになろうとは。ここ数日は、妻とともにフランスの友人たちにメールで安否をたずねた。さいわい、ちかしい友人たちはパリから離れて暮らしているひとが多く、直接の被害はなかったらしい。

  「見えない波」でお世話になった、パリ国際大学都市日本館のみなさんは、ご無事だろうか。 

    オランド大統領により非常事態を宣言されたパリから、仕事先の友人がメールをくれた。「パリはいま戦争のようです。たくさんの軍人たち、警官たちであふれ、サイレンが鳴りやみません。あなたといったバーのあるボルテール通りは、自爆テロで封鎖されました。追悼と反テロリズムのデモもつづいています。オフィスでは、だれも仕事をする気はないのですが、各国からの出張のキャンセルなど、対応に追われています」。

    フランスとシリアの犠牲者の方々に哀悼を、被害者の方々にお見舞いを述べたいと思います。フランスと世界にすこしでも早く、平和が戻ることを祈って。

    I extend to my friends and people of Paris, France my heartfelt condolences. 
   Also my deep sorrow and concern should be as well as to the inoccent victims in Sylia.

    I will be praying for a complete recovery for the world peace as soon as possible.

2015年11月14日土曜日

現代詩の祭典 in 南九州市に出演





    今朝5時ごろ、南九州市で震度4の地震があり、津波警報が発せられた。南九州のみなさんは、ご無事でしたでしょうか。

    去る11月8日日曜日、薩摩半島の南端にある知覧文化会館にて、「現代詩の祭典 in 南九州市」が開催。高岡修さん、山下久代さんらとともに、バスから見た桜島、錦江湾こと鹿児島湾の、うねるような光がとにかく美しかった。二日酔いも吹き飛ぶ。

    川辺郡に属した知覧町は薩摩の小京都と名高い。格調ある武家屋敷と1036柱の石灯籠がならび、水路がはしる。ぼくには金沢を思いおこさせた。会館のエントランスでは、名産品の知覧茶を高校生が淹れてくれる。御当地キャラの「お茶むらい」と記念撮影。

    南九州市長さんをはじめ、関係各位にご挨拶。2500篇もの応募があった文芸祭現代詩大会の審査員の宇宿一成氏、宮内洋子氏、渡辺めぐみさんにも挨拶。

    知覧は、特攻隊で知られる知覧飛行場があった町でもある。知覧特攻平和会館を視察。ゼロ戦や遺品の展示もあるが、特攻平和会館を特徴づけているのは、「言葉」だろう。おびただしい数の絶筆や手紙、寄せ書きなどが展示されていて、当時の特攻隊員ひとりひとりの胸中の言葉を、いまに伝えている。軍の検閲もあったらしいが、胸に迫る、いい展示だった。

    祭典のプログラムを紹介しておこう。

    川辺フィルハーモニー管弦楽団による「フィンランディア」の演奏。

    小中学生・一般の部公募作品表彰式。文部科学大臣賞など。
    選評は最終審査員代表の高岡修さん。「文学が滅べば、国も滅びる」と、熱い。すばらしい選評。

    知覧町連合青年団演劇部「劇団いぶき」による、知覧特攻隊員の言葉を題材にした朗読劇「留魂」。

    和合亮一さんによる、詩の朗読。

    城戸朱理さんを司会に、和合亮一さん、ぼくの鼎談「詩の現在、詩の未来」。

    この祭典の内容については、レビューが掲載される可能性あるので、ここでは詳しくふれません。

    ただ、さまざまなジャンルが交差しつつも、入賞した小学生たちの詩作品をふくめ、魂を洗濯してくれるような、胸に迫る演目ばかりだった、とだけいっておこう。涙腺がゆるみぱなしの午後だった。

    観客数は600人ほどときく。この祭典がお披露目だった『耳の笹舟』をはじめ、ぼくの詩集も完売していただいた。

    南九州市のみなさん、ほんとうに、ありがとうございました!こんどは、薩摩の小京都もゆっくり、めぐりたいです。

2015年11月12日木曜日

鹿児島より帰宅



    10日の夜に、「第30回国民文化祭   かごしま2015」の地、鹿児島より、帰宅。昨日は予想どおり、執筆と残務に追われ、呆然とバカラのショットグラスにスコッチを注いだのは、午前3時だった。

    気温が25度にとどいた日もあった、鹿児島。自宅のあるさいたま市の田園とは4〜7度の気温差があり、帰宅後はけっこう肌寒く感じた。

    庭にでると、だんだん、楓が色づいてきている。鹿児島は、椰子の木だったけれど。下の写真は、国民文化祭出演の記念品としていただいた、作家物の黒ヂョカ。鹿児島では、焼酎を水わりし、二晩ほど寝かせたものをこれにいれ、火にかけてお燗にするのだとか。千代香、茶家ともいう。この黒ヂョカは、ガスコンロにもかけられる、逸品だとか。把手も、アケビの蔓で編んである。

    これから、すこしずつ書いてゆくけど、実行委員長をされた詩人・俳人の高岡修さんをはじめ、ともに出演した城戸朱理さん、和合亮一さん、そして鹿児島で出会った詩人たちとすごした三日間はすばらしい時間だった。

    福島に帰る和合さん、福岡と唐津をまわる城戸さんと別れたあと。国民文化祭と毎晩の酒宴でお疲れなはずなのに、高岡修さんと山下久代さんが鹿児島空港まで車で送ってくださった。

    搭乗時間の十分前まで、ぼくら三人は空港のレストランでビールとアイスクリームとパフェを食べながら、最後まで詩について話しこんだ。

    鹿児島のみなさん、高岡さん、山下さん、城戸さん、和合さん、ほんとうにありがとうございました。桜島のすがたと、鹿児島の街の濃厚な夜の時間が、まだ体中を包んでいる気がします。

2015年11月6日金曜日

国民文化祭・かごしま2015へ


   写真家の赤阪友昭さんから、『耳の笹舟』のお礼状をいただく。

   手づくりのカードに貼付してあったのは、アラスカの作家の作品。「鳥の影に見えるのは、ワタリガラスです」との由。さまざまな野鳥が登場する本詩集への、連想もあるのだろうか。

    また、拙詩集へのお礼状やお手紙を、他の方々からもいただいております。この場をかりて、お礼を申し上げます。

    そのワタリガラスたちとともに、明日からは、知覧で開催される国民文化祭のため、鹿児島へ飛ぶ。 11月8日は、詩人の城戸朱理さん、和合亮一さん、そして鹿児島の詩人といえばご存知、高岡修さんとともに登壇する。

    ブログは11月12日までお休みの予定です。再開しましたら、ぜひおつきあいください。    

2015年11月4日水曜日

秋の大山へ






   田村隆一の『緑の思想』に「水」という詩がある。

   
      どんな死も中断にすぎない
      詩は「完成」の放棄だ

      神奈川県大山のふもとで
      水を飲んだら

      匂いがあって味があって
      音まできこえる

      詩は本質的に定型なのだ
      どんな人生にも頭韻と脚韻がある

 
   その大山に一泊二日でいった。あたご滝のバス停から歩いてすぐの旅館「東學坊」に宿泊。透明無臭の天然温泉につかり、大山の「水」でつくった、地酒と名物の豆腐料理で一杯。

    丹沢山系の水はあまい、あまい水。持病の耳鳴りも、湯とせせらぎのなかに溶け落ちてゆく。

    翌日はあいにくの雨。リニューアルされた大山登山鉄道にのって、阿夫利神社下社に参拝。
    
   紅葉は、ケヤキがきれい。カエデが燃えているころ、水はどんな味と音がするのだろう。

2015年10月31日土曜日

ワタリウム「JRの映像展 24fps」


   東京青山はワタリウム美術館の次回展示、「JRの映像展24fps」に翻訳協力をさせていただいた。
    ぜひ、お立ち寄りください。


    今週は『地形と気象』イベントのほか、東洋大学学園祭での講演、詩人の田中庸介さん主催のポエトリーマガジン「妃」のイベントに顔をだしたり、詩の催しがつづいた(上記、後ほどブログにアップします)。

    フランスの現代美術作家JRの展示は、11月7日がオープン二ング上映会。ぼくも招かれていたのだが、鹿児島は知覧での国民文化祭に出演するため、いけない。

    年末まで、イベントや大学での講義がつづく。エキサイティング!でも、打ち上げやパーティで呑みすぎないようにしないと。
    みなさんも、文化の秋をお楽しみください。

2015年10月30日金曜日

『耳の笹舟』、明日、刊行


   ぼくの第三詩集『耳の笹舟』が、明日、刊行になります。

   よろしければ、ぜひ、お手にとってみてください。

   装幀は、前詩集『まどろみの島』につづいて、奥定泰之さん。手にしていただければわかりますが、じつにこころにくい仕掛けがあります。自分でいうのもなんですが、美しいだけでなく、深さのある装幀の仕事ではないでしょうか。これはすべて、装幀家・奥定泰之さんのお力。

    本文は特色の黒、だろうか。光のもとだと、ほんのかすかに、濃い藍に傾くのだ。

    奥定さんの装幀に、詩の言葉が釣り合ってくれればと、願うばかりです。

    英訳タイトルは、ご存知、アメリカ現代詩学者の遠藤朋之さん。この場でお礼を申し上げます。

    通常詩集の1・5倍の行数はあるだろう、今詩集。入稿時は、手書きの原稿用紙で二百枚近かった。紙幅の関係で、それをさらに三分の二ぐらいまで、絞り込まざるをえなかったのだけれど。
    海外で翻訳発表されても、(なんと)いまだ日本語で発表されていない連作詩篇も、けっこうでてしまった。
    ゆえに、さまざまな方にお世話になった詩集です。編集に携わっていただいた、思潮社の高木総編集長と出本さん、こころよりお礼を申し上げます。

    この本の笹舟が、これからどこへ漂いでてゆくのか。楽しみです。

2015年10月28日水曜日

11/27は新詩集刊行記念イベント


   『地形と気象』イベントにつづき、来たる11月27日、下北沢の本とビールのお店「B&B」さんにて、イベントに出演します。

   もうすぐ、10月31日刊行のぼくの新詩集『耳の笹舟』と、佐峰存さんの第一詩集『対岸へと』の刊行記念イベントが、ゲストにいまもっとも注目されている若手詩人のひとり、岡本啓さんを加え、版元の思潮社さんの主催で開催。

    「現代詩手帖」11月号にも告知がでると思いますが、リンクは「B&B」さんの告知です。


   写真は、できたての、『対岸へと』。カバーアートは東京の湾岸のようでもあり、ニューヨークのようでもあり、境界が溶けあった、刺激的なコラージュ作品になっている。帯に「越境のトポス」とあるように。   

    詩人の野村喜和夫さんとともに、不詳、このぼくが『対岸へと』の栞文を書かせてもらったご縁で、今回のイベントの話がきたのだった。

    じつは今週の月曜日に、佐峰さんとはじめてお会いしてきた。場所は、秋葉原。とんかつ呑みをしながら、おなじ店で四時間ちかく話しこんでしまった。

    ソフトな声調で、とてもていねいな話し方をされる佐峰さんは、小学生のころに渡米。大学卒業まで、アメリカに在住されていた。大学は文学と批評のメッカ、イェール大学。ただし、国際政治学が専門だったとの由。

    佐峰さんが長らく滞在された、ニューヨークシティ郊外のロングアイランドのこと。911とイラク戦争。急速に右傾化する日本。日本文学とアメリカ文学。詩の話のみならず、佐峰さんとは、いまの国際政治の話でも、たいへん盛り上がった。それこそ、一本のイベントのごとく、とことん話しあったのだった。午後十一時。とんかつやの看板娘さんに、「もう、(いいかげんに)閉店ですから」と退出をうながされるまで。

    佐峰存という詩人。またひとり、ユニークで力のある若手がデビューしたと思う。
    いまからイベントが、楽しみ。

2015年10月24日土曜日

『地形と気象』イベント・レポート



写真    左から、詩人の暁方ミセイさん、管啓次郎さん、大崎清夏さん


    10月24日土曜日、左右社ホームページで連載中の定型リレー詩『地形と気象』の「中間報告会」が、下北沢のすてきな書店「B&B」で開催されました。
    『地形と気象』は、こちらから。


    ご来場のみなさま、ありがとうございました。

    さいきん、書籍化も検討されていることが判明したこのプロジェクト。左右社の編集子Tさんがパイロット版の特製リブレットを配布。

    はじめに、メンバー全員が、ディレクターである大崎清夏さんのiPad miniをまわし読みしながら、朗読。声にだして読んでゆくと、あらためて緊密感があるなと思う。それから、リレー詩にも登場する地形と気象、旅の話、創作秘話を披露。ミセイさんのチベット、啓次郎さんのカリフォルニア、そして清夏さんのつい最近のリトアニア。

    約十ヶ月、ともに書き綴ってきたわけだけれど、清夏さんが「連詩ははじめて」ときいて、いまさら、おどろいた。清夏さんの次がぼくの番なのだが、偉達だと思っていたので。即興性の高い連詩の場で、つねに安心して読める安定感と、瑞々しくフレッシュな感性と発想をキープする詩行は、さすが大崎清夏と、唸されたものだ。

    そばで啓次郎さんの朗読をきいて、あらためて気づいたこともある。現代詩は声にだしてきくとその意味がとれないことが多い。もちろん、それが悪いとはいわないけど。でも、啓次郎さんの詩の場合、詩的言語がそのままで明晰さを保持しており、きいているだけでも十二分に楽しめる。「見えない波」ツアーのときも同様で、ロンドンでは観客の女性が彼の英訳詩をきいただけで、とてもよかったと感想を述べにきていた。そして、このことは、詩が散文脈で書かれているか否かの問題ともちがう。書き手としての練度?
    啓次郎さんの詩的言語が、現代詩の書き手のそれと組成を異にしていることが、声からもききとれた。

    暁方ミセイという、詩人。するどい切り返しと、だれにも真似できない彼女自身の詩世界は、いつもリレー詩の全体を遠くへ、予期しなかった道標まで導いてくれる。

    お三方は、ぼくにとって、いまもっとも一緒にプロジェクトをしてみたい詩人。そして、このリレー詩はぼくにとって、すばらしいマスタークラスになっている。三詩人は、ぼくの先生でもあるのだ。

   会場には、詩人の田中庸介さん、そして、いま「現代詩手帖」投稿欄で活躍中の鈴木澪さんも足を運んでくださった。

    このリレー詩には、日本在住の文学研究者にして詩人Jeffry Johnsonさんによる英訳がある。リレー詩と英訳が完成したら、国内イベントとともに、海外イベントも企画されています。
    そして、下北イベントでは、啓次郎さんのハプニング的な発案で、フルメンバー本人たちによる英訳バージョンの朗読もあったのだった、、。

   さて、じつは、このイベントで、ぼくは致命的な発言をしてしまう。

   リレー詩メンバーは反デカルト的なこころやさしいアニミストなので、さまざまな動植物が重要な役割を果たすことになる。なかでも、犬。

    トークでも、詩人たちは犬派か猫派か、という話題になった。

    ぼくはその質問にたいし、「やっぱり、ぼくは猫派かなぁ。しなやかでもふもふだし、いいにおいだしね」と答えたのだ。

    そして、イベント翌日。

    おお、類稀な智慧と愛嬌を身につけたチョコ・ラブラドールにして、わが家の愛犬ハンナ。彼女の、なんと、冷ややかで怒りと侮蔑にみちた瞳が、ぼくにじっとそそがれていたことか。

    かの淑女は、ぼくがいくら犬用ビスケットでご機嫌をとろうと、鼻面をクンとうえにあげ、お手も、おすわりも、いちどたりともしないのだった。

2015年10月23日金曜日

明日は『地形と気象』イベント!


    左右社ホームページで連載中の定型リレー詩『地形と気象』、ぼくの番の「#44」が掲載されました。
    ぜひお読みください。


     そして、ついに明日は東京下北沢の本とビールのお店「B&B」にて、15時よりイベント開催!

     詩人の暁方ミセイさん、大崎清夏さん、管啓次郎さん、ぼくのフルメンバーで出演します。
    朗読、連詩秘話、大崎さんのリトアニアのお話など、もりだくさん!

     詳細はこちらから、


    ご来場ください!

2015年10月22日木曜日

秋のブランディー



   なかなかに風邪がなおらないのだが、原稿はまってはくれない。
    ところが、気がついたら、電車にのって、茅ヶ崎へ。人間の逃避精神とはこわいものだ。われながら。

    浜辺を散歩しながら、日没の相模湾をながめる。ウィスキー、というより、ブランディー色に枯れてゆく海だ。

    そんなことを詩人ぽく感応すれば、なんとなくひと仕事した気分になる。探偵ならこうはいかない。さいきん好みのキリンのスタウトビール二本を買い、グリーン車で帰路へ。

    そうだ、せっかくだから、海への供物として、ブランディーを呑もう。浦和で下車。「田楽」へ。

    マスターの上甲さんにたのむと、マールをだしてくれる。
    かの「ジュブレ・シャンベルタン・ドメーヌ・ドゥブレ」のシャンベルタン村(ブルゴーニュ)のマール。乾いた芳醇な葡萄の香りは、名門ワインのそれそのもの。

    二杯目のときに、軍鶏の卵でつくったプリンももらう。ブランディーとカラメルのソースが、マールによくあった。

    となりに女性はいないが、きょうも楽しく逃避行。22時、まだオフィスにいる編集者さんから、電話。

  「石田さん、そろそろ、あがりました?」

    「いえ、ちょっと、いまミューズとお会いしていて…」

    「…バッカスのほうじゃないでしょうね?」

   「……」

2015年10月20日火曜日

高岡修『虚無の見る夢』を読む



   11月8日に鹿児島は知覧で開催される国民文化祭。ぼくを招いてくださった、鹿児島の詩人、高岡修さんの『虚無の見る夢』(ジャプラン)を、ここ数ヶ月、かたわらに置いている。

    「新虚無僧伝」と副題にある、この書物。ひとことではいえない、とてもユニークな書物だ。

    「私」を語り部に、「虚道」さんという禅僧が主人公なのだけれど、純文学小説(時代小説?)であり評伝、仏教書でもある。また、高岡修という詩人であり俳人でもあるひとの詩学を如実に語ってもいる(「虚無」という言葉は高岡さんの詩にも俳句にも頻出するし、テーマとなっていると見受けられる)。その意味では、キメラ的な私小説ともいえるかもしれない。

   虚道さんは、これも高岡詩のテーマなのだが、「死児」なのだ。

   畏敬する高岡修さんは、詩も書き、俳句もつくり、批評もエッセイも書く。さらに、今回、小説(?)も書かれたのかとおどろいた。だが、その背骨たるや、詩であることに変わりはない。

    さまざまな他者の言葉、他者としての異ジャンルが交差することで、移動している本。ぼくはそんな書物を最近、別のエッセイで「旅する本」と書いた。

   そして、高岡修さんは「旅する詩」の書き手なのだとあらためて思わせる、不思議な余韻を、本書は秋の机辺で奏でてやまない。

    鹿児島で再会するのが、楽しみ。