2015年4月29日水曜日

詩への旅、その1。「いまを生きる詩歌」展へ





    岩手県北上市の日本現代詩歌文学館に行ってきました。2015年度常設展「いまを生きる詩歌」展に新作詩を出品したのです。北上市の気温は27℃をこえ、日差しが強く、初夏の陽気。
    展勝地ではさくら祭が開催されていたのだけれど、今年の桜は一週間早く開花。ほとんどの染井吉野は葉桜になっていた。それでも、八重桜、枝垂れ、山桜は花がついていて、春に帰った気分。桜に翻弄されるのは日本人の性だろう。端午の節句をひかえ、北上川の上には300メートルに及ぶ鯉のぼりの群がわたされ、元気に泳いでいた。その北上の風物詩にしばしひたる。
    詩歌文学館では、学芸員の豊泉さん、八木澤さんが出迎えてくださる。再会を喜びつつさっそく展示室へ。
    パフレット表紙に使われていたドアが、立体になって設置してある。扉の表面には、すでに展示を観たたくさんの方々の言葉がポストイットに書かれ、貼られていた。展示された詩歌に触発され、被災者や犠牲者の方々にあてた言葉。「忘れない」という言葉。元気な小・中学生たちの言葉もあり、復興への明るみも感じられる。そのひとつひつとつを拝読しながら、ぼくもこの方たちとともに言葉を紡いでいる、そんな不思議な実感が湧く。
    展示されている俳句、短歌、川柳、詩をじっくり読む。おなじ震災に向きあって書かれている言葉が、詩形を超えてたしかに響きあっている。一出品者としても、ジャンル間の言葉の発現を考えるうえで、興味の尽きない展示になっていると思う。また館内には地元の投稿者の作品も展示されており、とてもいい詩歌が多かった。丹念に読ませていただく。こうして文学館が地域の詩と文化の磁場を確実に形成していることが貴く、またうらやましくもあった。
    展示室では、ぼくが出品した詩、「いま  この一瞬」の朗読の撮影があった。この作品はいま編集が進んでいる新詩集に収録される予定です。終了後は、ぼくの希望で関東では考えられないおいしさの回転寿司屋へ。

2015年4月24日金曜日

春の酒器




   あたらしい春の盃を手に入れた。
   初期伊万里染付猪口。南青山の李朝を得意とする骨董屋で贖ったものだ。裏底銘に「大明」とある。つまり、1630
年代、延宝様式以前のもので、もっとも古い初期伊万里盃のひとつだ。柿右衛門窯の色絵染付、いわゆる「そば猪口」はまだこのころにはない。
    古伊万里研究家の荒川正明氏編『静嘉堂蔵   古伊万里』の図録で確認したら、たしかにおなじ猪口が掲載されている。骨董屋さんいわく、この系統の盃は割れつぎされているものがほとんどで、状態のいいものは珍しいとか。
    盃はかなり薄手で小ぶり。というのも、徳利にあわせたかったから。徳利は、H氏賞授賞のとき、詩人の城戸朱里さんからお祝いとしていただいたもの。伝世品の鶏龍山手で年代は不詳。ほぼ完器。風にそよぐ象嵌柳鳥文が春を思わせる。ややかしいだ姿とあたたかな刷毛目の色味は、燗酒にぴったりだろう。城戸さんのブログを読んでいたら、この徳利の話も登場した。ぼくがいただいたのは、城戸さんが所有する鶏龍山手徳利三本のうちの一本だったようだ。城戸さんのブログ記事は、こちら。


    ぼくがいただいた徳利はややサイズが小さい。酒は1.3合が入るくらい。じつはこれだけ小ぶりな徳利だと、なかなかあう盃がない。古伊万里盃を手にするまえ、ある骨董屋で鶏龍山手の刷毛目盃を見せてもらったことがある。指三本ではつまめないほどちいさな盃で、てらてらに酒焼し、手ずれしている。譲価は120万円。すばらしい古格の盃だったが、完全にマニア向け。猫の水飲み皿といわれても信じてしまいそうなほど、一般人には汚れて見える。
    この徳利にあう盃で、初期李朝はさすがに高価だった。となると、選択はおのずと限られてくる。さがすのに二年かかった盃、なんとか今年の春には間に合った。うれしくて、毎日のように徳利と盃をつかっていたら、徳利は早くも酒焼けしてきて、鶏龍山特有の黄粉がかかり、肌もすこしとろっとしてきた。来年は、この徳利と盃で、花見をしよう。

2015年4月22日水曜日

岡本啓さんと新宿DUGで


   ちょっと前のことになったけど、四月のはじめに、詩人の岡本啓さんから連絡があった。新宿の老舗ジャズ喫茶店DUGでお会いすることにし、待ち合わせる。仕事などで新宿に来ると、時間があるときは必ずDUGか、おなじく四谷の老舗ジャズ喫茶店いーぐるに立ち寄る。ジャズを聴きながら原稿を書いたり、本を読んだりするのだが、編集者さんとも会う。書斎がわりに使わせていただく喫茶店のひとつだ。
    岡本さんとお会いしたのは、はじめて。トレードマークのキャップをかぶり、落ち着いた、やさしげな方だが、好奇心が旺盛なようだ。いまはワシントンDCから帰国され、京都にお住まいだとか。上京された折、わざわざ連絡してくださったのだ。
    まずH氏賞授賞式のスピーチのためにお話を聞く。それから詩や文学の話もしたけれど、ロックやジャズの話でとにかく盛り上がった。伝説的なジャズピアニスト、アンドリュー・ヒルの話をするころには、ぼくはだんだんエンジンがかかってきてビールからハイボール、そして、おかわり、おかわり。岡本さんからロックバンド、マヘル・シャラル・ハシュ・バシユを教わり、iPhoneで聴いてみたりして遊ぶ。それで、すっかり岡本さんの写真を撮らせてもらうのを忘れてしまったが。
    結局、二時間ぐらい話しこんでしまう。これから松本へゆくという岡本さんを新宿駅にお送りしながら、ジャズミュージシャンのポートレーターでもあるDUGのマスター中平穂積氏の写真をひととおり眺める。店内には、70年代に来日した、DUGのまえに立つセロニアス・モンク。ニューポート・ジャズフェスでのホーレス・シルバー・クォーテットをとらえたオリジナルプリントなどが飾られている。ブログ冒頭の写真は、マスターの作品。岡本さんは、晩年のマイルス本人が描いた油彩画のまえで、たたずまれていた。

2015年4月20日月曜日

「地形と気象」春のオフ会


    写真右から、詩人の暁方ミセイさん、大崎清夏さん、管啓次郎さん、詩人・比較文学研究者・翻訳家のJeffrey Johnsonさん、左右社のT氏、つまり左右社ホームページで連載中の定型リレー詩「地形と気象」オールメンバーが集合。地形は、新宿のタイレストラン「サームロット」。気象は、春の嵐。
   ジェフリーさんとお会いするのは初めて。アメリカから帰国したばかりの啓次郎さんも元気そう。最近の「地形と気象」の詩にもその片鱗がうかがえるが、シアトルからコロラド、LAまでの学会と映画上映の旅だったらしい。店のチョィスは大崎ディレクター。東南アジアの旅を語られていた清夏さん。いわく、ラオスはグローバリゼーションが進みすぎていて、言葉のなかの異邦に魅力を感じたとか。ミセイさんは韓国を旅行していた。ジェフリーさんはエドガー・アラン・ポーの旅を楽しんでいる。
    日本の春を楽しんでいたぼくは、みなさんの旅の土産話を拝聴。 花見に話題がうつったとき、ミセイさんが「満開の桜のしたで食べる牛丼が最高」といっていたのが面白かった。この晩、持病の耳鳴りがしていた。薬を飲んで、酒は控え目。嵐がくると、耳鳴りがするのは、なぜだろう。でも、みなさんと過ごしたひとときは、肉体の内外の嵐を忘れるほど、ここちよかった。そんな和気藹々としたムードでまだまだつづく、左右社ホームページ連載の「地形と気象」はこちらから。


2015年4月15日水曜日

湘南の酒と、さいたまの筍



    連夜の「卒業式」から帰宅したら、贈り物が届いていた。湘南の造り酒屋の原酒と大吟醸酒。和紙のラベルには、ぼくの名前が入っていた!ラベルの書は、印刷ではなく墨と筆で揮毫されたのだろう。こんな字を、いつか書けるようになりたいです。
    送り主はK.Fさんで、かつて鎌倉の鶴岡八幡宮前で人力車をひかれていた方。ぼくの詩やブログも読んでいただいていたらしい。イタリアンの料理人に転職され、今月、めでたく結婚式を挙げられた。近々、奥方とアジアからヨーロッパまで放浪しながら、イタリアに行かれるらしい。イタリア到着は来年の6月ごろとか。
    家ではたまたま母が筍を茹でていた。写真は筍の刺身。庭でとれた山椒の葉を添えて、酢味噌をつけて食べる。うちでは先週、初物の筍を食べたけれど、今年はまあ早いですね。さっそく原酒を呑みながら、筍をいただく。K.Fさんご夫妻、おめでとうございました!この場を借りて、お祝いとお礼を申し上げます。

2015年4月12日日曜日

浦和田楽にて







   新詩集の原稿を思潮社に無事入稿。担当は、前作に引き続き高木総編集が自らかってでてくださった。さらに、同編集部の出本さんがついてくださることに。二人がかりでの本づくりということで、とてもこころづよく、また恐縮しています。
    その後は、浦和の焼き鳥や「田楽」で「卒業式」。しゃもの刺身にはじまり、豪華なおつくりには花わさびも添えてある。上甲さんのサービス、川越産天然うずらのローストとづけ玉子は、もともとフランス品種だとか。
    鹿児島の筍、ホワイトアスパラ。春、というよりもう初夏の旬を味わっている。新詩集と向きあった三年間も、あっという間だった気がした。

2015年4月9日木曜日

新詩集の初稿、完成。





   新詩集の初稿を昨日、4月8日に編み終えた。釈尊の誕生日、90年ぶりに春の雪が降った日だった。今朝は5時に起きて、最終チェック。それから一杯だけビンテージスコッチを、いただいたバカラのショットグラスに注いで、初稿の束とお別れした。いまのところ、原稿用紙150枚。すくなくとも、通常の詩集の1.5倍の行数はあると思う。前詩集の『まどろみの島』が形式も本の体裁もコンパクトだったので、対比的な詩集を編みたいと考えていました。
    タイトルは『耳の笹舟』にする。
    ぼくは3年に一冊のペースで、詩集をだしてゆきたいと思っている。この3年間、今日という日を目指し、楽しみにして書いてきた。なのに、いざそうなってみるとあまり実感がわかない。詩はやはり、どこまでも他者の出来事なのか。
    この原稿がぼくに属しているのも、あと数時間。今日は仕事が終わったら、版元の思潮社さんに原稿を入稿して、打ち合わせに入る。
    ぼくの卒業式は今晩、バーで行われるだろう。

2015年4月7日火曜日

「毒と劔」レヴューを執筆




   オイリュトミスト、ダンサーの鯨井謙太郎さんが構成・振付・演出、詩人の城戸朱理さんが朗読・テキストという、オイリュトミー・パフォーマンス『毒と劔』。去る2月14日、15日の二日間にわたり神楽坂セッションハウスで開催された公演のレヴューを執筆しました。『現代詩手帖』6月号に掲載の予定。『パプーシャの黒い瞳』につづいての掲載になりますが、ぜひお読みください。
    原稿はいつも手書き。最近は、神楽坂の老舗文具店、山田紙店のオリジナル原稿用紙に万年筆で書いている。今回はほぼ移動先で書いたので、ペンシルとコクヨのA4サイズ原稿用紙をつかう。桜のしたのベンチで、花見なんかしながら。
    鯨井さんたちのオイリュトミー・パフォーマンス、また観てみたい。

2015年4月5日日曜日

映画『パプーシャの黒い瞳』レヴューが掲載


    4月4日から東京神保町の岩波ホールで上映されているポーランド映画『パプーシャの黒い瞳』のレヴューを、『現代詩手帖』5月号に執筆しました。
    ポーランド映画界の巨匠、ヨアンナ・コス=クラウゼ、そして惜しくも昨年他界したクシシュトフ・クラウゼ両監督によるこの映画は、東欧のジプシーとして初めて「詩人」になった女性、ブロニスワヴァ・ヴァイスの波瀾にみちた伝記的作品。映画の詳細情報は、こちら。


絵画のような映像美、すばらしい作品でした。とくに、詩に興味のある方にはおすすめ。詳しくはレヴューを、ぜひお読みください。